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翻訳書ドミノ 第7回

(2014/09/02)
 本日は翻訳書ドミノの第7回。前回の『マルベリーボーイズ』から“子供の密航”つながりで、ネヴィル・シュートの『パイド・パイパー』へ。

パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)
(2002/02/22)
ネビル・シュート

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 『マルベリーボーイズ』の主人公は子供ひとりで密航をさせられましたが、こちらは初老の紳士が子供たちにつきそいます。物語の主人公はその初老の紳士、70代のイギリス人ジョン・ハワード、元弁護士です。1940年夏、幼い子供たちを連れて、ドイツ軍に占領されたフランスからイギリスへの脱出をはかります。内陸の町から、彼は果たしてフランスの海岸へたどりつけるのか? 無事、海峡を渡ることができるのか?

 ジョンがフランスにいたのは、釣りを楽しむ目的でわざわざきな臭くなってきたフランスへと渡ったからです。まあ、彼がそんな行動に出たのには理由があったのですが、それでもその後の歴史を知る人間からすると「えええっ」と驚かざるをえません。しかし、開戦当初、ドイツ軍の強さ、侵攻の速さがわかる前は、本書に描かれているようなどこか楽観的な雰囲気もあったのかなあと思いながら読んだのを憶えています。
 子供連れの老人の脱出行ですから派手なアクションなどはまったくなしですが、違った意味でハラハラドキドキさせられます。特に体力に不安を感じたことのある人は、初老のジョンと自分を重ねて時に胸が苦しくなるような緊張感を味わうのではないでしょうか。
 こんなふうに書くと、老人萌えや中高年の読者向けの本かと誤解されてしまうかもしれませんが、本書には若い男女、ジョンの息子とフランス娘ニコルの恋も描かれています。戦時ですし、幸せな結末は迎えない恋愛です(これは物語の冒頭からわかっていることなので、ネタバレではありません、ご安心を)。解説の北上次郎さんは本書を“美しい恋愛を描いた小説でもある”と評していらっしゃいます。そして物語の終盤、ニコルが自分の恋愛を振り返ってジョンに言う言葉がすばらしくよいのです。ですが、わたしも北上さんに倣って引用したい気持ちをぐっとこらえます。彼女の言葉は本文の流れのなかで読んでこそ感動を呼ぶと思うので。
 地味な作品の部類に入るかもしれないけれど、未読の方がいらしたらぜひ一度手に取ってみてくださいね。
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プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
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