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ドストエフスキーと愛に生きる

(2014/06/15)
ドストエフスキーと愛に生きる

 1923年キエフ生まれのロシア語→ドイツ語翻訳者、スヴェトラーナ・ガイヤーさんの晩年を追ったドキュメンタリー。渋谷アップリンクの上映最終日になんとか観ることができました。上映回数は減っても4カ月近く上映してくれたアップリンク、すばらしいわ。

〈スヴェトラーナさん略歴〉
 スターリンの粛正により父を失ったのち、ドイツ軍占領下のキエフで語学の才能を生かし通訳として働く。1943年、ドイツ軍の撤退を機に母親とドルトムントへ移り、その後はドイツ在住。
 第二次大戦後に比較言語学を学び、1957年ごろからロシア文学のドイツ語翻訳を始めると同時に大学で教壇に立った。2010年に死去。享年87歳。

 冒頭で印象的だったのはスヴェトラーナさんの声の若さ、きちんとアイロンのかかった白いシャツ。彼女がアイロンかけをする場面に移って「textile」と「text」の語源が同じという話になるんだけど、「洗濯された織物は方向性を失う。だから、(アイロンをかけて)糸の方向をもう一度整えてやる」という考え方がユニーク。
 アイロンがけだけでなく、スヴェトラーナさんの暮らしぶりは衣食住のどれについても丁寧。パンフレットでは「食」の部分がクローズアップされていたけれど、玄関ホールにとても自然にきれいな花が飾られていたりして、住まいも居心地よさそうだった。

 翻訳に関しては訳稿をタイプで打ってくれる女性、読み合わせをしてくれる男性(編集者?)との共同作業の部分がカメラにおさめられていておもしろかった。男性が提案した変更についてスヴェトラーナさんが無言で考えこんでいると、男性「わかりました! 降参だ。このままで」、スヴェトラーナさん「あとでひとりで考えてみます」といったようなやりとりが交わされたり。

 翻訳の話をしているときのスヴェトラーナさんの表情には自信と誇りが表れているというか、強さが感じられた。それが第二次世界大戦中の話になると、変わる。
 パンフレットで『ダ・ヴィンチ』編集長の関口靖彦さんは「彼女は、本作で自分の過去のすべてを言葉にしてはいない」と書き、ロシア文学者の亀山郁夫さんは「(ゲシュタポの将校ケルシェンブロック)伯爵との間には、何かしら語るに語りえない謎が潜んでいるような印象を与える」と指摘している。それを強く感じたのが戦時の経験について語る彼女の表情だった。何か罪悪感を抱いているような、怯えともとれるような表情だったと思う。
 映画を観終わったあと、彼女がどんな経験をしたのか少し思いめぐらしたりもしたけれど、あの表情を見ると語られなかった真実を穿鑿したいとは感じなかった。数奇な運命を乗り越えて生き延びた、精神的にも強いはずの人がああいう表情になってしまう経験だったんだなとわかるだけで充分というか。

 この作品、DVD化されるだろうか。DVDでもう一度観てみたい。

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プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
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