FC2ブログ

02

18

コメント

「編集部あとがき」はどうでしょう?

(2024/2/18)

 前回の記事には(著名ではない一翻訳者が書いたものとしては)たいへん大きな反響がありました。当ブログのユニークアクセスが記事公開初日に1500を超えたあと、2日目以降の1週間も1日平均約200のユニークアクセスが続きました。記事に関するTwitter(旧名で通します)への最初の投稿はインプレッションが13.2万、RT/RPが約300、いいねが約500となっています。わたしが翻訳を担当している作品の読者さんや同業者さん、出版・書籍販売関係の方々を中心に温かい応援の言葉やメッセージを驚くほどたくさんいただきました。記事を読んでくださったり、関心を持ってくださったりしたみなさまに、まとめてではございますが、お礼を申しあげます。本当にありがとうございました。
 2月3日に追記しましたとおり、版元とは話し合いが始まりました。こちらでもご報告できるようになるのは少し先になるかもしれませんが、引き続き見守っていただけると嬉しいです。見守ってくださる方々の存在は、訳者にとって本当に大きな力になり得ることをひしひしと感じています。

 前回の記事を公開するに当たっては——当然ながら——非常なストレスとプレッシャーを感じました。ただ、多くの方に今回の問題だけでなく、翻訳者が置かれている苦しい状況を知っていただけたことで、心強さを感じて、以前よりは気持ち的に楽になった部分もあります。もちろんわたし個人の今後についてはまだ——正直、一年、二年……といった単位で——安心はできないと思っていますし、強烈な精神的苦痛を覚えたりする瞬間はあるのですが。
 今回本当にすばらしいなと思ったのは、版元ファンの方も「○○社さん、それはおかしいんじゃないか」と声をあげてくださったこと、翻訳のジャンルを超えて同業者さんたちから応援の声をいただけたこと、そして声をあげてくださった方全員が冷静で理性的な反応をしてくださったことです。これはふだんから本に親しんでいる人、翻訳を通じて言葉と向き合っている人、言葉の影響力を(無意識のうちにでも)知っている人が多かったからではと感じています。

 きょうは前回の記事に書いた「訳者が無料で引き受けるのが慣例になっている作業」のひとつ、訳者あとがきについて提案をしてみたいと思います。
 SNSアカウント〈本のフェアトレード〉のアンケートを見ると、訳者あとがきが無料でも書くのが苦ではない人もいれば、負担に感じている人もいるようです。そこで、訳者あとがきを引き受けるかどうかは訳者に「選ぶ権利」があるといいなと思うのですが、いかがでしょうか? ふだんは「書きたい派」の翻訳者でも、時間的な問題などで「今回はちょっと……」という場合もあるかもしれません。そんなときは担当編集者が引き受けて「編集部/編集者あとがき」を載せれば、読者のみなさんからしても変化が感じられたりしておもしろいのではないかと思うのですが、どうでしょう? 編集者も自社のウェブサイトに担当書の紹介文を書いたりすることは多いですし、出版社側としても大きな負担にはならないはずです。
 ほかに「あとがきはなしにする」「書評家・専門家に依頼して解説を載せる」などの方法ももちろんあります。ただ、書評家や専門家に依頼する場合はそれなりのお金がかかるようなので、刊行費用をおさえたい場合はOKが出にくいでしょう。

 ここでわたしが提案しているのは、あくまでも「翻訳者が選べるようにしてほしい」ということです。訳者が「今回はむずかしいんですけど……」と出版社に相談できるようになれば、引き受けることにして書いたときには、出版社側に「書いてもらえてよかった/助かった/ありがたい」という意識が生まれるかもしれません。「訳者あとがきを書くこと」が「慣例」で「当たり前のこと」から「感謝の対象」へと変化すれば、翻訳者への敬意が急速に失われつつある現状も少しだけでも改善に向かって動きだすかもしれません。

 個々の仕事で、印税率や初版部数について交渉を試みている翻訳者は、少数かもしれないけれどいるようです。ただ、出版社側には「それならほかの人に依頼します」というカードがあるので、有名な訳者さんでもうまくいかなかったという話を読んだり聞いたりしたことがあります。
 刊行経費に直接響く部分を変えるのは困難。それならまず、ほかの部分で訳者の負担が軽減される工夫を始められないでしょうか。「編集部あとがき」はあくまでも具体的な案のひとつとして書いてみました。もっといいアイディアが浮かぶ人もきっといるはずです。

 ちなみに、わたしは訳者あとがきを書くのは得意ではないものの、特に新人のころは「プロになれた」証のようにも思えて、書くことに誇らしさ(?)を感じていた気がします。何カ月もほぼ毎日向き合ってきた、たいせつな本について書くわけですし。ただ、仕事を続けるうちに、訳者あとがきが無償であることに疑問を持つ先輩翻訳者さんたちがいることを知りました。また、自身の経験でも、「それは専門家に依頼して解説として書いてもらうべきでは?」と思う内容や水準のあとがきを求められたときには困惑しました。

 翻訳者はふつう印税契約です。本が出れば訳者にまともな印税が入ったころは、あとがきやそのほかの作業を無償で提供することも「あり」だったかもしれません。ですが、印税率や初版刊行部数がどんどんさげられているのに「慣例の無償作業はそのまま」の状態が続けば、しわ寄せが大きすぎて翻訳者が疲弊するだけです。

 変化が簡単には起きないのはわかっています。でも、ひとりでも多くの方にいまの出版翻訳業界が持つ問題について理解を深めていただき、「よい翻訳書を読むことができる環境」を守るには?と考えていただけたらと思って、この記事を書いてみました。本が好き、翻訳書が好きという方が翻訳者が抱える問題に関心を持ちつづけてくだされば、「簡単ではない変化」に少しずつでもつながっていくかもしれません。


管理者にだけ表示を許可する

この記事のトラックバックURL

http://rhiroko.jp/tb.php/248-500f43ec

プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

QRコード

QR

*32*

Designed by

Ad