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無料電子ブックにわたしの訳文が無断で大量に使用されてしまいました

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ヘレン・エクスレイ編『希望のことば』(中村妙子訳・偕成社)
1999年の刊行時に恩師からいただいた御訳書。昨年書店でも見かけましたが、まだちゃんと生きているのすごいです。
わたしがときどき読み返すのはハリエット・ビーチャー・ストウの次の言葉。

行きづまって
もう耐えられない
そう思うとき
そういうときこそ
あきらめずにお待ちなさい
そういうときこそ
潮の変わりめなのです

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(こういう記事を書かざるを得なくなり残念です)
(下記の件については、いま版元と話し合いが進んでいます。わたしだけでなく、翻訳者全体の人権と著作権が尊重されることが確認される結果になるよう双方努力中です。みなさまにはぜひ、下記をお読みいただいたうえでどうぞ温かく見守ってくださいますよう、よろしくお願いいたします。 2月3日追記)
版元からの謝罪文が出ました。この件については、またあらためてブログ記事を書きたいと思っていますが、Twitterのほうに関連の投稿をしましたので、まずはそちらをご覧いただけると幸いです。 3月18日追記)

 わたしはある版元の編集者(以後A)から、度重なるモラルハラスメントを受けていました。フリーランスに対するモラルハラスメントについてはこちらの記事 の(ケース4):力の差を利用して、精神的に追い詰めてくるがわかりやすいのでご覧ください。記事に「このタイプのハラスメントは、被害を受けている本人も、なかなか気が付けないものです」とありますので、「わたしは大丈夫」と思う方も一読をおすすめします。
 さて、昨年夏より、Aの上司である役員とわたしのあいだで話し合いが始まり、Aは現在わたしが翻訳を担当するシリーズの担当をはずれた形になっています。
 問題の電子ブックが公開されたのは、わたしと役員との話し合いが始まり、Aが担当をはずれたあとですが、電子ブックの企画作成はAが行いました。
 役員はAを担当からはずすとき「内容は教えられないが、Aは処分する」と述べたメールを送ってきて、その後「Aは反省している」と何度も言って、わたしを納得させようとしていました。しかし、この訳文の無断使用の件をAが役員に報告していなかったことを見れば、当人が反省などしていないことは明らかです。ちなみに、わたしとしては「処分の内容は教えられない」と書いてあった時点で「実際には何もしないのではないか」とある程度の予想はしていました。
 Aはこの版元のウェブ展開のヘッド(のひとり)で、そのポジションもそのままということです。役員は「ITが苦手」で、Aには「ほかの社員では補うことのできないウェブ知識」があるというようなことを、わたしとの最初の話し合いで述べていました。

 今回の訳文無断使用の件は、わたしが抗議すれば、関係者のうちにショックを受けるだろう人がいるし、電子ブックの元になったシリーズ作品に対するイメージが悪くなってしまう可能性や今後の自分の仕事のことを考えて、わたしが気がついても抗議しないだろう、もしくは抗議しても黙らせられると考えたものと思われます。

 ここで述べておきたいのは、電子ブックにわたしの訳文と一緒に掲載されているイラストとそれを描いたイラストレーターさんにはなんの罪もないし、わたしは同じ作品の邦訳版にかかわるチームのメンバーとして彼女をとても尊敬しているということです。Aと版元が作品のプロモーションをほぼまったくしなかったころから、目を惹くSNS投稿で作品の人気を盛りあげてくださいました。
 ただAによるハラスメント行為と、翻訳者としてのわたしを軽んじる言動に繰り返し精神的苦痛を味わわされてきたため、この電子ブックの公開はわたしにとってつらいものでした。そのため、掲載されているイラストは見た(そしてすばらしいと思っている)ものの、見るのはそこまでが精いっぱいで、自分の訳文がどこまで使われているかは確認することができずにいました。しかし、SNSで「これが無料なんて出版社太っ腹!」「え、試し読みでこんなに読めるの?」という内容の投稿を何度か見て、「これはやはり確認しなければ」と、先日ようやく通常の電子書籍版の試し読みとの分量の違いを確認できたしだいです。

 役員に抗議のメールを送ると、Aがわたしから訳文使用範囲の了承を得ていないことを認めたため、電子ブックの公開を2月1日以降になるが停止するとのメール返信が即日ありました。しかし、「大変申し訳ございません」というだけで、訳文の無断使用の補償や、Aや版元からの正式な謝罪についてはいっさい言及がありませんでした。さらに、電子ブックは公開をいったん停止したあと、試し読みの部分を通常の分量のものに差し替え、ほかにも変更を加えて「改訂版」として続刊のプロモーションに用いるつもりらしく、公開前にわたしに「ご覧いただく」ことで幕引きをはかろうとしました。わたしはこの電子ブックを「見るのが苦痛だ」と言っているのに、さらにもう一度中身を確認しろというのです。
 再度ガイドブックを配信するなら、「改訂版」ではなく、Aとは違う人物が違う形でイラストレーターさんとガイドブックを作成しなおしてほしいと役員には伝えました。

 役員からすれば「この時点で電子ブックの公開停止をすれば誠意ある対応」だと考えているのだと思われます。ただ、これだけ翻訳者の権利と気持ちを踏みにじり、訳者が時間と労力をかけて作成した成果物を「前もって範囲を知らせることなく、大量に」約半年間も使用しておきながら、それに対する対価を一円も支払わず、正式な謝罪もせずに事態を収束させようとするのは、やはりおかしくないでしょうか。
 わたしは金銭的な補償と、Aと会社からの正式な謝罪を求めていますが、その話を持ちだしたら、役員からの返信はとまってしまいました。

 どうしてこのようことが起きるのか。ひとつには一冊の翻訳書が刊行されるまでに、訳者が「無料で」引き受けるのが「慣例」になっている作業がいくつかあることが関係しているとわたしは思います。無料で仕事をさせることができる相手に、「敬意」というものが薄れていくのは自然ではないでしょうか。それに付随して「善悪の感覚の麻痺」が起きてくるのも。
 訳者の報酬・待遇の問題については、昨年から〈本のフェアトレード〉というSNSアカウントが興味深い記事の発信や投稿などを始めています。そのウェブサイトで公開されている記事〈「食べていくのは難しい」の意味─出版翻訳者の労働の価値を考える〉(永盛鷹司)に次のような文章があります。

1冊の翻訳書を商業出版するというのは、さまざまなメンバーから成るチームでのプロジェクトだ。そのなかで翻訳者は、訳文に対して責任を負うという役割を担当しているのであり、通常はそれを超える権限も、それ以外の責任も持たないはずだ。それなのに、印税率と発行部数の減少が、翻訳者の収入の算定においてはまるで「本が売れないことに対するすべての責任を直接取らせている」ように機能している。

 こういう問題があるなかで、訳者の労働の成果物が版元によって事前にきちんと相談も通告もされることがなく、無料で大量に使用されるという事態があってもいいものでしょうか?
 版元から本当の意味での誠意ある回答・対応があることを、それをあらためて当ブログでお知らせできることを期待しています。

(わたしは仕事をいっぱいしているわけではないので、版元や電子ブック、その元になっているシリーズの名前を伏せても、みなさんにすぐわかってしまうだろうし、伏せる意味がないかなと最初は思いました。ただこの記事は版元に誠意ある対応を求めると同時に、出版業界で翻訳者とその労働の成果物がもっと尊重される方向への変化が起きてほしいという気持ちもあって書いているので、このような形にしました)
(この版元のファンという方は「こんな記事信じたくない、読みたくなかった」と思うかもしれません。わたしも書かずに済めばよかったと思います。Aに関しては、わたし以外にも不利益を被らされたり、不愉快な扱いを受けた人が複数いるのですが、そのいっぽうで問題なく仕事をしてきた人もいるでしょう。そういう人は「あの編集者がそんなことするわけない」と思うかもしれません。ただAのハラスメント行為の一部については、彼が今後もそれを続けるためにわたしに嘘の説明をした証拠メールが存在し、上司の役員もそれについて把握していることを申しあげておきます)
(「え、あのシリーズの刊行の裏でこんなことが……」とがっかりされた方もいるかと思います。ただAはすでに刊行チームからはずれており、今後は不愉快な問題なく日本語版の刊行が続けていけるようになることを訳者は期待しています(訳者はほとんどなんの権限もない立場ではありますが)。シリーズファン・読者のみなさまにはぜひ、日本語版の刊行を引きつづき応援していただければと思います)
(このシリーズに関しては、納得のいく理由説明のないかぎり、邦訳刊行を打ち切ったりしないという約束を昨夏、役員からされています。不当なことに抗議の声をあげたフリーランスが、さらなる不当な扱いを受けることのないよう、みなさまに見守っていただけないでしょうか。なにとぞよろしくお願いします)

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プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
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