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嬉しい感想と『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』

(2024/1/25)

 今回は2024年最初の記事です。日本は新年早々大きな天災と事故に見舞われ、たいへんな幕開きとなってしまいました。寄付など(少額ですが)できることをしつつ、なるべく気持ちを落ちつけるために、いまはロバート・マキャモン『少年時代』(二宮磬訳・ヴィレッジブックス刊・残念ながら絶版)を少しずつ再読しています。先日作家の藤井太洋さんも「知ってる話を読み返すのは落ち着くね」とSNSに書いていらっしゃいました。絶対におもしろいとわかっている作品の再読は、安心して物語世界にひたれて(少しのあいだでも現実から離れられて)、こういうときに向いていると思います。

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 さて、昨年11月に刊行されたアレックス・ジーノ『リックとあいまいな境界線』について、読書メーターに嬉しい感想を書いてくださっている方々を発見しました。この本は2020年コロナ禍真っただ中にリーディングをして、版権がすみやかに取られ、訳稿も2020年中に納品していたのですが、そこからがいろいろとたいへんでした……(ゆえに刊行までに3年もかかっているわけです)。そのため、こうして実際に邦訳版を手に取り、“読んでよかった”と思ってくださる方々の声に触れられて、喜びもひとしおです。刊行直後には銀座教文館の児童書売場〈ナルニア国〉さんの「きになる新刊」にも取りあげていただきました。読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます。
 LGBTQ+に関する部分に加えて、友達とのつき合い方、そして(このごろかなり増えてきている印象の三人称単数のtheyをはじめとした)代名詞の話題などについても反応していただいていて感動です。がらくたどんさんは当ブログの11月の記事にコメントも寄せてくださっているのですが——だからここでメンションしても大丈夫だといいのですが——本書について「曖昧な性自認を広い空に解き放つ物語」というすてきな表現をしてくださっています(そのままキャッチコピーとして帯に使えそう!)。本書が、ゆっくりとでも、必要とする人たちの手に届いていきますよう。

 ここで、その11月の記事の最後に書いた、アセクシュアルを理解するうえで参考になる本をご紹介したいと思います。理解するうえで参考になる本というより、わたしが読んでよかったと思う本と言ったほうがいいですかね。ジュリー・ソンドラ・デッカー『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』(明石書店)です。

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 複雑だったり、わかりにくかったりする世界情勢や社会問題に関する本・記事を読んだあとにときどき経験するのですが、読んでいるあいだは理解が深まって頭のなかの整理ができたように感じるものの、しばらくすると「あれ?」と、またよくわからなくなることがあります。これには年齢も関係しているだろうし、最近はややあきらめの境地です。
 ただ、だからこそ、信頼できる本が手元にあって、またわからなくなったときに読み返すことができるとありがたいと思っています。『見えない性的指向〜』は多くの人にとって、そんな存在になる本ではと感じています。
 
 本文はパート1から6に分かれていて、その下にわかりやすい小見出しがついています。パート5 知っている人がアセクシュアルか、そうかもしれないと思ったら を例に取ると アセクシュアルの人はどうしてほしいの? どうすれば受け入れられたと思ってもらえるの?/どんなことを言ったりしたりしてはいけないの?/子どもがアセクシュアルだと言ったら? まだ若いのに、どうしてわかるの?(抜粋)などです。このため、「また理解が曖昧になってしまった」とか「自分はどうしたらいいだろう」と思ったときに、参考になる箇所を見つけやすいと思うのです。

 あとですね、著者ジュリー・ソンドラ・デッカーさんの語り口が冷静でとてもよかった。いまメディアに出て、LGBTQ+にかぎらずマイノリティについての理解を広めたり、ハラスメント行為に抗議したりしている人たちを見ると、辛抱強くてすごいなあと思うことがあります。本書にはアセクシュアルの人が直面する無理解の例が紹介されていて、当事者の人たちなら感情的になったり、非当事者を非難するような調子になっても当然では……と感じる箇所があるのですが、あくまで理性的な文章なのです。非当事者に対する理解や思いやりも感じられるというか。これ、本当にすごいことだと思うのですよ。
 2019年4月初版刊行で、わたしが持っているのは2022年4月の7刷。こういう派手ではない本がしっかり重版して書店に並んでいることに希望を感じます。このすばらしい本を日本語にして届けてくれた翻訳者の上田勢子さん、版元の明石書店さんに感謝です。
 『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』はノンフィクション、『リックとあいまいな境界線』はフィクションですが、これからいろんなフィクションとノンフィクションの両方の力が合わさって、多様な人が生きやすい世界へと変わっていきますようにと——簡単にいかないのはわかっていますが——祈ります。

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プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
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