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アレックス・ジーノ『リックとあいまいな境界線』

(2023/11/15)

 まず最初に、前回の記事でお知らせしたプレゼント企画に応募くださっているみなさま、ありがとうございます。よろしければとお願いしたよく読むジャンルや好きな作家に加え、わたしの翻訳担当書との出会いなどについても綴っていただいたりして、メールを楽しく読ませていただいています。こういう好み、読書歴の方が当ブログに興味を持ってくださっているんだなと知ることができてたいへん嬉しいですし、これからの自分の仕事の方向性を考えるうえでも大切にしたいと思っています。お返事を差しあげるのは12月に入ってからになりますが、まずはお礼を申しあげます。29日まで募集しておりますので、ご興味のある方はぜひご応募ください。



 さて、いろいろあってお知らせが遅れていましたが、わたしが翻訳を担当した『リックとあいまいな境界線』(偕成社)が発売になりました。2016年に刊行された『ジョージと秘密のメリッサ』の著者アレックス・ジーノによる、アセクシュアルの少年を主人公にした児童書です。
 6月に開催された読書会でワニ町シリーズのレジュメの一部をご紹介したところ、翻訳者が書いたリーディングレジュメというものに関心を持ってくださった方が多い印象でしたので、今回もレジュメの抜粋に少し手を加える形で、本書の内容をご紹介したいと思います。リーディングをしたのは2020年ですので、その時点で書かれたものです。

『ジョージと秘密のメリッサ』が本国でストーンウォール賞とラムダ賞をダブル受賞し、日本でもトランスジェンダーを主人公とした児童書の先駆けとして、高い評価を得たアレックス・ジーノの新作である。
 本書の主人公は『ジョージと秘密のメリッサ』で、いじめっ子ジェフの親友だったリック。前作では『シャーロットのおくりもの』の劇を上演したあと、ひとりで講堂から帰っていく姿が印象的だった。本書には中学入学を機に女子として登校を始めたメリッサやその親友ケリー、そしていじめっ子のジェフも登場する。ただし続篇という形は取っていないので、独立した作品として読むことができる。
 本書でジーノが描きたかったことは大きくふたつあると思う。ひとつは性と性的指向の多様性。もうひとつは“本当の親友とはどんな友だちか?”という問題だ。
 思春期にさしかかったとたん、まわりから“女の子”の話をされることが増えたことで、リックは戸惑う。女の子を“好きになる”とか“性的な関心を抱く”といったことがまったく理解できなかったからだ。LGBTQ+(性的少数者)の理解を目的とした課外クラブ〈レインボー・スペクトラム〉の活動を通して、リックは自分がアセクシャルなのではないかと考え、インターネットで検索してその思いを強めていく。
(中略)
 (中学生になってから、毎週訪ねることになった)祖父との関係はリックが親友ジェフとのつき合いを見なおすときにも大きな助けとなる。リックは、いじめっ子のジェフの親友であることにモヤモヤとしたものを感じながらも、自分は意地悪をされることがなく、彼と一緒にゲームをするのは楽しいという理由から、ずっとジェフとつるんできた。しかし祖父の「大きな喜びを与えてくれるのが正しい親友で、一緒にいてありのままの自分でいられないと感じるような相手は間違った相手だ」という言葉に背中を押され、大きな決断をする。
 『ジョージと秘密のメリッサ』ではトランスジェンダーの子どもの苦悩を描くことに焦点が絞られていたが、本書ではトランスジェンダーよりもさらに耳慣れない、それゆえに理解も進んでいないアセクシャルやクロスドレッサーといった多様性関連の言葉がいくつも出てくる。やや盛りこみすぎと感じる部分もなくはないが、そうしたさまざまな人たちが“いることを知る”初めの一歩とするのによい本だと感じた。
 前作と異なる点がもうひとつある。ジョージは自分がトランスジェンダーであることを自覚してからしばらく時間がたち、すでに確信を持っていた。本書の主人公リックは自分と周囲の違いに気がついてまだ間もない。本人のなかでアセクシャルではないかという思いが強まっていき、身内に打ち明けるという一歩を踏みだすものの、物語中では断定的な表現は使われていない。性的少数者の“気づきの過程”に光を当てた作品と言えるだろう。
 本書はアメリカでは対象年齢が8〜13歳となっているが、日本では中学生以上かYA小説を好む層、マイノリティ(性的なものに限らない)の問題に関心が強い成人が読者の中心になるのではないかという気がする。(中略)本書には要所要所でメリッサが登場し、“ありのままの自分”を生きはじめた頼もしい姿を見せてくれている。前作と本作、どちらを先に読んでも双方向で読者の興味を刺激し、読者・理解者の輪を広げていける本だと思う。
 
 本書の巻末にはAS LOOP のメンバーであるなかけんさんによる〈解説 ひとりひとりちがう“性のあり方”〉が収録されています。なかけんさんはNHKドラマ〈恋せぬふたり〉の考証を担当されていた方です。
 また、版元のウェブサイトには遠藤まめたさんによる本書のレビュー〈たとえ物語の中であったとしても––––自分を否定されない環境が心の支えに〉が掲載されています。ぜひご一読ください。レビューのなかで遠藤さんは「この書評を書いている私は、本書に出てくるレインボーズによく似た名前の「にじーず」というLGBTの子ども・若者が集まる居場所を運営している」と書いていらっしゃいます。上記のレジュメを読んで気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんが、本書に登場する〈レインボーズ〉は原書では“レインボー・スペクトラム(Rainbow Spectrum)" です。これを日本の読者にもわかりやすく、すぐ親しんでもらえる名前にするには?と考えていたとき、訳者は遠藤さんたちが運営している〈にじーず〉を思いだしました。そこで、邦訳版では思いきって“スペクトラム”を除き、“レインボーズ”と複数形にしてクラブの名前にしたという経緯があります。
 今回なかけんさんに解説、遠藤まめたさんに書評を書いていただけたことは、本当に光栄でした。おふたりの活動に注目している方、おふたりを信頼している方、そして“物語の中であったとしても安全な居場所”を必要としている若い読者に見つけてもらえますようにと祈るばかりです。
 レジュメにも書きましたが、本書は児童書ですが日本では成人の読者のなかにも興味を持ってくださる方が多いのではと感じています。書店では、児童書コーナー以外にも置いてみていただけたら幸いです。

 アセクシュアルを理解するうえで参考になりそうなほかの本などもご紹介したかったのですが、ちょっと長くなってしまったので今回はこの辺で。また折を見て、別記事でまとめられればと思います。

☆アレックス・ジーノ作品に関する当ブログの過去記事
ジョージと秘密のメリッサ』(2016/12/19)
GEORGEを訳すうえで参考になった本(2017/06/13)
GEORGEを訳すうえで参考になった本 その2 (2017/06/25)
『ジョージと秘密のメリッサ』刊行から一年(2017/12/24)
『ジョージと秘密のメリッサ』原書タイトルが George から Melissa へ(2021/11/18)

がらくたどん

『リックとあいまいな境界線』ぜひ読んでみたいと思います。実は長らく地方都市の図書館で働いてまいりましたが、社会は児童書から変わっていくという実感があります。「認められる世界が描かれている」ことがどれほど支えになるのかも。ご紹介ありがとうございました(*^。^*)

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21:06

しまむら

がらくたどんさんは図書館でお仕事してらしたんですね!「社会は児童書から変わっていく」——重みのある言葉です。「認められる世界が描かれている」本、このごろ増えてきていますが、必要とする若い世代にしっかり届くと——まずはそういう本があることを知ってもらえると——いいなあと思います。

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21:11

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プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
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