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幸せな合流点〜FFX歌舞伎と#FFX歌舞伎〜

(2023/4/29)

 3月からちょっといろいろあったため更新のあいだがあいてしまいました。そんななか観てきたFFX歌舞伎について、きょうは少し書きたいと思います。ただし舞台のすばらしさそのものよりも(それについてもそのうち書くかもしれませんが)#FFX歌舞伎というハッシュタグの盛りあがりについて。このハッシュタグ、「楽しそうなところに人は集まる」のとてもいい例で、SNSのプラスの力が発揮されていたと感じたからです。

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 前編開演が正午で後編終演が夜9時。チケットは前後編通しがSS席32,000円、一番安いB席でも19,800円。前編か後編のみならSS席18,000円、B席で11,000円という価格。会場はたいていの人にはあまりアクセスのよくない豊洲のステージアラウンド。ゲームのFFXも歌舞伎も両方好きという人以外は躊躇する要素があった作品です。わたしは当初行く予定ではなく、見取り(みどり:通し狂言にせず、見所のある一幕・一段ずつを上演すること)のような形で再演されたら行こうかなと考えていました。
 ところが! 3月4日の初日後、Twitterで「FFX歌舞伎」を検索すると絶讃の嵐。ゲームファン(だけど歌舞伎は初体験)と歌舞伎ファン(だけどゲームのFFXは未プレイ)の方々がどちらも「おもしろかった! どうしても嫌だという理由がないかぎり観て!」というようなツイートをしていたのです。ふだん絶讃ツイート/レビューは個人的に「?」と感じることもあるんですが、FFX歌舞伎については信じられそうな気がしました。そこで、通しにするか、前後編を別々の日で観るかなど悩んだものの、とにかく観てみようと決断。
 いやはやすばらしい舞台でした。実際に体験してみると、前後編3時間半ずつが噓みたいにあっという間。金谷かほりさんと共同演出・主演の菊之助さんが「名場面のオンパレード」と言っていたとおり、本当に最初から最後まで全部見所と言っていいくらいで退屈するところがまったくない。役者さんの演技・衣装・巨大スクリーンも含めた美術と演出のみごとさを考えると、どの席のチケットもほかの娯楽作品と比べて高いどころか「この値段でこれを見せてくれてありがとうございます」ではないかと思ってしまうほどでした。
 とはいえ、開幕当初、平日の入りはあまりよくなかったようです。わたしが行ったのは開幕から2週間弱の平日だったんですが、座席はS席後方から後ろがごそっと空席で……。あの光景を見たときの衝撃はいまもどう書いたらいいかわからないくらい(すぐに思いだしたのはやはり空席が目立ったウィーン版〈エリザベート〉の初来日公演なんですけど、その辺も書くと長くなってしまうのできょうは割愛)。すばらしい舞台を見せてくださっている出演者のみなさんのお気持ち(もちろん演技に集中してはいるだろうけれど)を想像すると、胸がざわざわしました。
 その後、平日の入りもよくなり、千穐楽も平日だったけれどカーテンコールが2回行われたりと大盛りあがりで、全公演無事に上演できて閉幕——となぜ行かなかった千穐楽のことまで知っているかというと、後編の最後に写真撮影OKのカーテンコールがあり、週末と公演ラストの1週間は役者さんの客席降りもあったりで、毎日たくさんの写真が #FFX歌舞伎 のタグ付きでアップされていたからです。公演中はこのカテコ写真(思わず笑ってしまうキャプションつきのものも)を見るのが毎晩の楽しみになり、このハッシュタグをチェックしているあいだはまさに「時間が溶ける」という感じで、気がつくと1時間以上過ぎていたこともありました。
 公演期間中、SNSの盛りあがりとそこからのお客さんの増加(リピーター含む)には出演者や公式アカウントも手応えを感じていたはず。というか、出演者の方々が舞台裏の様子を楽しくツイートしたり、公式がハッシュタグをチェックして観劇がさらに楽しくなるような情報をツイートをしたりということが #FFX歌舞伎 をさらに盛りあげていったという、プラスの相互作用が働いていたように思います。出演者のみなさん、お忙しいなかでのツイートやインスタブログ記事のアップは時間的にも体力的にもたいへんだったのではないかと思います。それでも、関係者のみなさんも楽しんでやっていらっしゃるのが伝わってきて、閉幕間近にはSNSに苦手意識があったという蝶八郎さんのこんなツイートも拝見できて、本当にいいハッシュタグだったなあと感じました。

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(↑このぬいぐるみたち、休憩時間によって置き方が変わっていたりと会場スタッフさんの遊び心が感じらて、こういうところもFFX歌舞伎を楽しいものにしていたと思います)

 おもしろいなと感じたのは、歌舞伎ファンの方の「認識していなかった閉塞感」に気づいたというツイート。歌舞伎に限らず、ほかのジャンルでも長年のお客さんや固定ファンはもちろん大事だけど、何かこう少しオープンな雰囲気とか、よそから参入するきっかけ作りって大事だよなとあらためて思いました。今回の舞台は「ゲーム」と「歌舞伎」という本来は大きな隔たりのあるふたつのジャンルを融合させたことが、それぞれのファンが相手のジャンルに興味と敬意を持ちつつ——興味も敬意も持てない人はそもそも時間とお金を使ってステアラまで行ってみるというチャレンジはしなかったはず——交流できた鍵のひとつかなという気がします。

 本公演について「幸せ」という言葉を使う人が多いのは偶然ではないと思います(公式サイトのレポにもタイトルにも「幸せ」という言葉が入っている)。菊之助さんが「バースデイ」で使っていた(ゲームと歌舞伎の)「合流点をさがす」という表現を使うなら、「幸せな合流点」を見つけるのに大成功したのだと思う。「奇跡」なんて言葉を使うととてもナイーヴ(幼稚)に聞こえそうだけれど、ネット上にも本当に奇跡のように楽しく幸せな空間ができていた。SNSはマイナスの側面もあるし、Twitterがこのまま機能しつづけるかどうかもわからないけれど、この#FFX歌舞伎というハッシュタグはSNS体験のとても楽しい思い出のひとつとしてわたしの心に残っていきそうです。

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プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
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