FC2ブログ

09

29

コメント

おもしろいと思ったのに……

(2022/9/29)

 読んだのに、そのうえおもしろいと思ったのに、その本の存在がすっかり頭から抜け落ちていた……という経験をしたこと、ありますか? わたしは先日、電子書籍でそういう本を見つけて、しばし呆然としてしまいました。

 バルバラ・ベルクハン『ムカつく相手を一発で黙らせるオトナの対話術』(小川捷子訳・CCCメディアハウス)です。
 インパクトのあるタイトルがついていますが、原題は Judo mit Worten: Wie Sie Gelassen Kontra geben。ドイツ語なのでGoogle翻訳を使うと、“柔道の言葉:冷静に対抗する方法”という日本語になります。内容的には原題のほうが近いかと。スプレッドシートでつけている読書記録によれば、わたしは2015年に読了していて、「とても参考になった」とあります……。



 読んだけど内容を忘れてしまった、とか、(あまり好みじゃなかったので)読んだことも忘れていたという本はわりとあります。でも、本書に関しては存在を思い出せなかったことに呆然とする理由があって。
 少し前になるけれど、「不愉快なことがあったときに、ただ我慢するのではなく、ユーモアを交えて対応するコツみたいなものが書いてある本ってないかな?」と思って、電子書店などでちょっとさがしてみたんです。でも、なんかピンとくるものがなく。ところが、先日たまたま自分の電子書籍のライブラリを見ていたら、本書が目につき、「あ! あれ? 少し前にわたしが読んでみたいと思ってた本って……まさにこれだったのでは」となったのです。「こういう本が読みたい」と思ったら、せめて「前にそういう内容の本を読んだ気がする」くらい思い出せよー、自分。記憶力の衰え、ここまで来たか……。それに、せっかくいいことが書いてあっても、ぜんぜん身についてなかったってことですよね。

 それはさておき、この本、ほんとにおもしろいんですよ。再発見(?)してから外で拾い読みしていたら、コーヒー噴きそうになりました。ユーモアが効いてるんです。
 著者のベルクハンさんはアジアの格闘技の知識があって、本書でも柔道や合気道を引き合いに出しています。本書のような翻訳ものの自己啓発書の場合、著者がアジアや日本の文化(禅とか)に興味を持っていると、国民性の違いを超えて日本の読者も共感を持てる内容の確率が高いと感じているんですが、本書はまさにそれ。
 「相手をギャフンと言わせたい」という人には不向きですが、不愉快な場面で、相手と同じ土俵にあがってしまうことなく、事態に対処する方法や考え方が紹介されています。
 ユーモアに関しては、例をあげると、おすすめできない対処法として突然「わら人形」が出てきたりするんです。このへんの訳語は、日本の読者におかしさが伝わりやすいように、訳者さんの工夫など入ってるかもしれませんが。こういうジョークが盛りこまれた楽しい語り口が本書の魅力のひとつ。

 自己啓発書はわたしも何冊か訳したことがあります。読者の方から初めてお便りをいただいたのは『思い込みを捨てろ、人生は必ず変わる』(ウォーレン・バーランド/主婦の友社)を訳したときのこと。1999年刊行の本なので、出版社経由のお葉書でした。お名前と住所も書いていただいていたので、お礼のお返事をすることも可能だったのに、しなかったことがいまとなっては心残り。単独の訳書としてはまだ2冊目で、読者さんからお便りをいただけるなんて思ってもいなかったため、ただただびっくりしてしまったんですよね……。

 『ムカつく相手を〜』の訳者あとがきで小川捷子さんは「翻訳された国の多さを思うと、人間というのは同じような悩みを抱えているのだなあと、いまさらのように思わずにはいられません」と書いていらっしゃいます。ほんと、海外の自己啓発書を読んだり、訳したりしていると、「え、日本人じゃなくても、こういうことで悩むんだ!」と驚いたり、ちょっと安心(?)したり。そういう「他の国の人との共通点」みたいなものが見つかるのも、こういう自己啓発書のおもしろさだと思います。
 ベルクハンさんの著作は邦訳がほかに何冊もあって、文庫化・電子書籍化などを経て、長く読まれているようです。
管理者にだけ表示を許可する

この記事のトラックバックURL

http://rhiroko.jp/tb.php/231-3b590e75

プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

QRコード

QR

*32*

Designed by

Ad