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米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』(集英社)

(2022/6/15)


米原万里『オリガ・モリソヴナの反語法』

 数年前に電子で買って、読みそびれていた本。ロシアによるウクライナへの侵攻が始まってから、ロシアや旧東側諸国、そこに暮らす人々について、テレビのドキュメンタリー番組などとは少し違った方向から、理解を深めることはできないかと読みはじめました。

 巻末に池澤夏樹氏との対談が収録されていて、その冒頭で池澤氏が「これは基本的に謎解き物語です」と述べているとおり、ミステリ色が濃く、知らなかったわたしはちょっと驚きました。舞踊教師であるオリガと、オリガの同僚でフランス語教師のエレオノーラは強烈な個性を放つとともに、その過去は謎に包まれていた……その過去が明らかになっていく後半は特に、ぐいぐい読まされました。

 旧共産圏をよく知る米原さんならではの人物や社会の描写が、やはり興味深かったです。ウクライナの人々が強制収容所へ連行されているという情報もあるいま、登場人物がラーゲリへ送られる場面などは読んでいてきついときもありました。けれど、悲惨な出来事が描かれているわりに、本書の読後感はさわやかでした。巻末の対談で池澤氏は次のように述べています。

強制収容所でどういう暮らしが営まれていたか、どのような苦労があったかが、読んでいて身につまされる。ひしひしと迫ってくる。それでいながら、全体のトーンがものすごく若い。子供たちの話から始まるだけでなく、ある年齢になって崩壊後のロシアを再訪して謎解きをする主人公シーマチカも若い。よって、旧ソ連のどうにもしようのない闇の濃さがうまく中和されて、明るさと暗さが対照的になって、どちらもくっきりと際立つ。
(米原万里. オリガ・モリソヴナの反語法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.6105-6106). Kindle 版. )

 この主人公たちの若さと明るさがあったから、わたしは本書を読了できたのかもしれません。それと、オリガとエレオノーラが遭遇した苦難を、必要以上に描きこむことはしなかった米原さんのスタイルにも救われた気がします。
 猟色家だったという政治家ベリヤに関する部分だけ、文章のトーンがほかと違うように感じたのだけれど(主人公がオリガたちの過去と関係がありそうな手記を読む場面)、そのすぐあとに「この資料はどれだけ信憑性があるの?まるで見てきたような描写だけれど、それにしては、扇情的な読み物風だし」(米原万里. オリガ・モリソヴナの反語法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.4051-4052). Kindle 版. )という文章があったので納得しました。

 最後にロシア人について、池澤氏と米原さんの印象に残った言葉を巻末の対談部分から引用しておきます。

(池澤氏)
この本を読んでから、ロシア人の性格について考えているんです。倫理的に非常にきちんとした正しい人と、堕落した人の両方がいるでしょう。どこの国でもそうだけれど、その対比が特に甚だしい気がした。(米原万里. オリガ・モリソヴナの反語法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.6234-6236). Kindle 版. )

(米原さん)
スターリン時代のソビエトのような独裁体制の国は、悪い人は絶望的に悪い。その一方で、こんなに人がよくて大丈夫なのかと心配になるほどいい人がたくさんいます。でも、猜疑心を持たないいい人が巨悪を許す、という点では、いい人の罪も重い。(米原万里. オリガ・モリソヴナの反語法 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.6242-6244). Kindle 版. )
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プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
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