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『わたしはなぜファンタジーに向かうのか』斎藤惇夫(教文館)

(2021/4/21)

 先月、『わたしはなぜファンタジーに向かうのか』 を読みました。これは「ガンバの冒険シリーズ」などで知られる斎藤惇夫さんが2013年に行った講演の内容をまとめた本です。2013年といえば東日本大震災から2年というタイミング。本文は〈3.11がもたらしたもの〉という小見出しから始まっています。
 大震災から10年の今年、3月11日が近づくと震災関係の記事やテレビ番組を例年以上によく目にするようになりました。震災直後の自分を思いだすと、津波の映像はあまり見ないほうがいい気がする。でも震災の特集番組などを避けていると、あれだけの出来事を、どれだけ大きな被害があったかを忘れてしまうかもしれないという不安を感じ、これから自分は大震災とどう向き合っていけばいいんだろうと、なんだかもやもやした(というと変かもしれませんが)気持ちでいました。そんなときに出会ったのが、この『わたしはなぜファンタジーに向かうのか』でした。
 本書は講演録のほかに付録として「被災地での観劇」というエッセイもおさめられていて、テレビやメディアの報道とは異なる角度から、震災を振り返ることができました。付箋を貼ったところから、特に印象に残ったところを一カ所引用します。太平洋戦争が終わったときに5歳だった斎藤さんが、終戦と震災後を重ねて、比べて語られた言葉です。

 問題は、一体今、今度は放射能汚染による目に見えない焼け野原として、原子力発電所の事故がもたらした子どもたちの恐怖を、取り除き、未来を明るいものとして感じさせるような物語が、そして未来を感じさせる知識・知恵としての百科事典が、出版活動が、はたしてあるのか、ということなのです。具体的には、戦後の焼け野原を、子どもたちのために緑の沃野に変えようとした方々、例えば、石井桃子さんや、瀬田貞二さんの志を継ぐ精神が、またお二人に存分に仕事をしていただいた組織や場所が、この新たな焼け野原的状況の中の、一体どこにあるのかということです。(中略)出版界は子どもたちの今と未来のために本を出版しているのか。編集者はどうか。本気になってこの言葉を、この絵を、この物語を、子どもたちの魂にとどけようとして一冊一冊作っているのか。図書館員はどうか、渾身の力で選書しているのか。それを自らの手で子どもたちに渡しているのか。そして、絵描きはどうか、線と色彩の美しさと構図の確かさで、生き生きと物語を語っているのか。翻訳者はどうか、我が国の子どもたちに伝えたい作品を厳選し、自らの日本語を、ポターの言葉を借りれば、ポリシュポリシュ、磨いて磨いて子どもたちに紹介しようとしているのか。そして、作家はどうか……!
(『わたしはなぜファンタジーに向かうのか』pp.10-11)


 この本に出会ったのは3月14日に教文館で開催された「いきものづくしものづくし」刊行記念講演会のあと、ナルニア国に寄ったときです(講演会は広いウェインライトホールで行われました)。そのときの講演会のことなども記事にできたらと思っています。

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島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
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