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コメント

『あしながおじさん』と the rights of women

 昨年〈『少年少女のための文学全集があったころ』を読んで〉というブログ記事のなかでこんなことを書きました——「たとえば『あしながおじさん』に関して、わたしが子どもころは素通りしていて、大人になってから気づいた部分についても書かれていたりしたので、そのあたりのこともまた記事にできればと考えています」
 この「大人になってから気づいた部分」というのは、『あしながおじさん』のなかには「女性の権利」など、フェミニズム的な要素がわりと盛りこまれていたんだなということでした。ちなみに、それに気づくことができたのは、こちらでちらっと書いたように、家事をしながらDaddy Long Legs のオーディオブックを聴いていたときなんです。

 『少年少女のための文学全集があったころ』で著者の松下由利子さんは次のように書いていらっしゃいます。

『あしながおじさん』が出版されたのは一九一二年、なんと「新しい女」の全盛期ではないか。恐らく「新しい女」が増えてくる中で、当然のことながらバッシングも起こっていたに違いない。日本でも同じころ、「新しい女」という言葉が広まるにつれ、それがもてはやされる一方で「ふしだらな女」「恐ろしい女」などのマイナスイメージを伴うようになり、やがて攻撃や揶揄の対象になっていた。米国東部の名門、ヴァッサー大学で経済学と英文学を専攻したウェブスターこそ、「新しい女」の一人であっただろうし、チャペルで行われた講演のくだりは、若い女性に「女らしき女」を説こうとする風潮をやんわりと批判したものではないだろうか。(Ⅲ章〈新しい女の登場〉p.95)



 松下さんが挙げているチャペルでの講演のくだり以外にも、親友サリーが学年の代表委員に立候補したとき、ジュディ(主人公)が手紙のなかで次のように書いている箇所があります。

You should see what politicians we are! Oh, I tell you, Daddy, when we women get our rights, you men will have to look alive in order to keep yours.

わたしたちがどんなに有能な政治家か、お見せしたいです!おじさま、いいですか、わたしたち女性が権利を手にしたら、男性はよほど活発に動かないと権利を守れませんよ。
(ジーン・ウェブスター. あしながおじさん(新潮文庫) (岩本正恵訳)



 いまは児童書という印象が強い『あしながおじさん』ですが、刊行された当時はどうだったのだろうと調べてみたら、アン・K・フィリップス氏による記事が見つかりました。〈"Yours most loquaciously": Voice in Jean Webster'sDaddy-Long-Legs〉です。
 この記事の冒頭に、現在はアメリカのシンデレラストーリーとして児童書に分類されているけれど、刊行当時は広く大人に読まれていたということが書かれています。また、恋愛小説というよりジュディが大学に行ったことで変身を遂げる物語であるという指摘もされていて、フィリップス氏は次のように述べています。

Webster's novel responds to many of the concerns of her era about sending young women to college. Daddy-Long-Legs is an unabashed campaign on behalf of women's colleges and the benefits for women of the college experience;
(この小説は当時、若い女性を大学で勉強させることに関して抱かれていた数々の心配に答える形になっている。『あしながおじさん』は女性が大学へ行くとどのようなよいことがあるかをひるむことなく謳った作品である)


 フィリップス氏はこの本の「恋愛小説としての魅力を軽視するのは間違い」であるとも述べています。そのうえで、『あしながおじさん』が楽しみのために読む人と、学者の両方をこれだけ長きにわたって惹きつけつづけていることは多様な視点から研究されるべきだとまとめています。

 著者のジーン・ウェブスターについて読んでいたら、彼女の夫グレン・フォード・マッキニーが(『あしながおじさん』執筆中はまだ結婚していませんでしたが)一時アルコール依存の問題を抱えていたということを知りました。Daddy Long Legs のなかでジュディが "I hope you never touch alcohol, Daddy? It does dreadful things to your liver." と追伸につけ加えているところがあり、その唐突な感じもあって印象に残っていたのですが、これは身近にアルコールの問題を抱えていた人がいたからだったのだろうなと納得がいきました。

 きょうは『あしながおじさん』についてとりとめのないことを書いてみました。わたしが『あしながおじさん』に出会ったのは小学生のときで、「女性の権利」に関する部分はよくわからずに読んでいたと思います。ただ、女性の権利だけでなく、20世紀初頭の社会問題についても自分の考えをはっきり述べるジュディの語りに触れていたことは、自分で気づかないうちにその後のわたしの考え方に影響したのではないか、考え方のベースにもなっていったのではないかという気がしています。そして、そういう無意識のうちの影響を受けた人はきっとわたしのほかにもおおぜいいたはずだと。そう考えると、書かれてから100年以上が経過し、いまも読みつがれている本書がこれまで読者に与えてきた影響は本当にはかりしれないと思います。


↑ Daddy Long Legs のオーディオブック。最近はなんちゃってシャドーイングにも使っています(笑)


↑原書の電子書籍は無料で読めます。ただしあのチャーミングなイラストはなしです。


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10

29

08:52

島村浩子

鍵コメさま

コメントありがとうございました! おとなになってからの再読で、同じようなことを感じた方がいらしたとわかって嬉しいです。本書はジュディからの手紙で構成されているので、ジャーヴィスについては読者が想像しながら肉づけできる部分が大きいように感じます。親族のあいだでの彼、なかなか微妙な立ち位置にいそうですよね。井上芳雄さん×坂本真綾さんによる舞台〈ダディ・ロング・レッグス〉(ジョン・ケアード脚本)はご覧になりましたか? あの舞台ではジャーヴィスがかっこいいけど、わりと「ヘタレ」なところもある男性という設定になっていました。
『あしながおじさん』はわたしにとって、また何度も再読して、人物像をふくらませたい作品です。

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21:52

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プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
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