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話し合いの経過

(2024/5/6)

 記事の更新が遅くなりましたが、1月末の記事の件は、3月18日に元記事に追記してTwitterに投稿しましたとおり、版元から謝罪文の公開と金銭的補償という対応がありました。今回はその件について少し詳しくお話します。

 版元の謝罪文が公開されたあと、複数のネットメディアに取りあげられたのには驚きました。1月末の記事への反響については2月18日の記事にまとめましたが、ネットメディアに取りあげられたあとは当ブログの一日のユニークアクセスが3,000を、トータルアクセスは4,000を超えました。3月18日のTwitter投稿はRTが約1,400、いいねが約1,800、インプレッションは30.6万となりました。
 Twitterなど各種SNS、ヤフーニュースのコメント欄には翻訳書を愛する方々から「出版社は翻訳者を大事にしてほしい」という声が多数寄せられました。好きな海外小説の思い出と合わせてコメントをしている方もいらして、これは良書の刊行に貢献してきた同業者、諸先輩方の訳業があればこそと強く感じました。
 訳文の無断使用事件が起きた版元はホワイトなイメージの強い出版社なので、ショックを受けたファンの方が多かったようです。ただ、翻訳出版業界で30年近く仕事をしてきた立場からすると、どこの出版社もホワイト100%ということはなく、グレーの部分も持ち、ときにブラックなことが行われる可能性もあるという印象です。
 訳文無断使用の背景には、前の記事にも書いたとおり前任編集者Aによるハラスメント行為という側面があります。完全に切り離して話すのはむずかしいですが、これについても語ろうとするとかなりの長文になってしまうので、ハラスメントに関する部分は別記事で書ければと考えています。きょうは出版社との話し合いがどのように進んだかに絞ってご報告をしたいと思います。

 まず、SNSで契約書の有無を気にかけていた方がいらしたので申しあげておくと、無断使用された訳文(作品)については、版元とわたしのあいだで契約書が交わされています。Aが電子ブックに使用する訳文の範囲についてなんの連絡もしてこなかった時点で、わたしは契約書を引っぱりだし、何度も読みなおしました。Aはいったいどの条項を根拠に、こんな行為が許されると考えているのか疑問だったからです。ただ、どこをどう確認したらいいか、どういう順序で行動したらいいかがわからないまま、半年近くが過ぎてしまいました。当初、この件について向き合おうとすると精神的な負担が非常に大きかったことと、電子ブックの公開時期は A をシリーズの刊行チームから外す交渉直後で、すでにエネルギーをかなり消耗していたことが理由としてあります。
 また、Aが行った行為は著作権侵害です。わたしがメールで相談したフリーランス110番の専門家(弁護士)からの回答に、著作権(複製権、公衆送信権等)の侵害に当たるとありましたし、版元も最終的に金銭的な補償を行う際に「賠償金」という言葉を使っています。
 ブログ記事のアップが1月30日(記事の日付が29日になっているのは、下書きを始めたのが29日だからです)、謝罪文の公開が3月18日となりましたが、その時間の大半は途中で訳者がこちらからの提案をまとめるのに日数をかけたこと、版元もそれについて社内で協議するのに時間がかかったことが理由です。以下にメールのやりとりなどの流れを時系列でまとめます。

1月30日  ブログ記事公開。
1月30日  版元からメール返信。
1月31日  訳者から版元へメール(実質的な話し合いのスタート)。訳者がTwitterに補足の投稿
2月2日  版元からメール返信(版元ウェブサイトでの謝罪文掲載と金銭的補償を行うとの連絡)
2月5日  訳者から版元へメール(謝罪文公開と金銭的補償が行われるとの回答に安心した旨と、それらについても含めていくつか提案をしたいことがあるので時間をもらいたい旨の連絡)
2月6日  版元からメール返信(上記の件了解の連絡)
2月15日  訳者から版元へメール(謝罪文と金銭的補償に関する最終的な提案を含むかなり長文のメール。返事は急がないことを付記)
2月16日  版元から訳者へメール(社内での協議に時間がかかる旨の連絡)
3月6日  版元から訳者へメール(2月15日の訳者からの提案について大筋了解という旨の連絡)

 見ていただけばわかるとおり、1月31日を実質的な話し合いのスタートとするなら、約1カ月で和解に達しています。また、2月5日以降は双方の主張が何度も食い違ったというわけではありません。
 訳者としては版元の当初の残念な対応に傷ついたり、憤りを覚えたりもしました。版元からの回答を待つあいだは精神的にかなりきつい時期があったのも事実です。ただ、リスクを冒して声をあげたからには、できるだけよい形で着地したいという気持ちがあり、そのためにどうしたらいいかを冷静に考えるには急がないことが大事だったと思いますし、時間をかけたのはよかったとわたしは思っています。
 2月15日の訳者から版元へのメールでは、金銭的補償の金額について再検討がされることを提案しました。2月2日に版元から提示された金額では、同様の事件の再発を防いだり、翻訳者全体の権利を守ったりする効果が弱いと考えたからです。こちらから提案した額はフリーランス110番からの回答を参考にしたもので、なおかつ翻訳者が払う側にまわったとしてもそこまで大きな額ではありません。この提案は3月6日の版元からの返信で受けいれられています。
 2月15日に版元に送ったメールにも書いたのですが、今回の件をわたしは「話し合ったほうが版元にも訳者にもプラスになる」というひとつの例にできればと考えていました。出版業界では翻訳者が理不尽な条件を呑まざるを得ない場合がありますが、本当にそれしか方法はないのか?と疑問に感じることがあるからです。
 訳文の無断使用という事件が起きたワニ町シリーズは、4月に7巻が発売になりました。リアル書店での動きも好調だそうですし、電子版は刊行直後にAmazonの英米文学と英米の小説・文芸でランキング1位になり、その後も上位で推移しています。「話し合ったほうが版元にも訳者にもプラスになる」ことの一例になれたかどうかの判断は、もう少し先にならないと下せないでしょうが、証明していくためのいいスタートが切れたのは確かかと思います。
 2月18日のブログ記事にも書いたとおり、変化が簡単には起きないことはわかっています。でも「こうするしかない」とあきらめるのではなく「ほかにも方法があるのでは?」と考えたり、できる範囲で工夫を重ねたりしていくことでよい方向へ進みはじめる場合もきっとあるはずです。地味でも小さいことの積み重ねを続けていければ。
 最近同業者さんからいただいたメッセージについてなど、まだ書きたいことはあるのですが、本日はすでにとても長くなっているのでこの辺で終わりにします。また機会を見て、いろいろ書ければと思っています。

*Twitterへの投稿に書いたことは、きょうの記事では省いて書いています。未読の方は合わせてお読みください(↑本文中にリンクをはったのと同じ投稿です)
 3月18日の投稿
 

プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

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