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『鏡の中のクリスティー』・『アガサ・クリスティーの真実』

(2022/5/29)

 気がついたんですが、前回も前々回の記事でも「本当にあっという間」に日々が過ぎたと書いていました。いやはや、語彙……。5月ももう月末ということに驚いています(笑)。

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 さて、先日『鏡の中のクリスティー』(中村妙子著・早川書房)について、「読み終えるのが勿体なくて、時間を掛けて読んだ」という方のツイートを拝見しました。この本、1991年の刊行でいまは絶版ですが、本当におもしろく、特にクリスティ作品の人物造形に惹かれる方なら絶対に楽しめると思います。

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 二年ほど前からGWごろに大掃除をするようにしていて、そのときに本棚の整理もしているんですが、先日、本棚の整理をしていたときに自分が持っている『鏡の中のクリスティー』を見て、「付箋貼りすぎでしょ」と苦笑していたところでした。

 中村先生は本書のほかに『アガサ・クリスティーの真実』(1986年・新教出版社)という本も出版されていて、わたしはこちらを先に読みました。読んだのは社会人になってからだったんですが、大学時代、ゼミ論を書くのに苦労した記憶がまだ新しく、「あー、この本を読んでいれば、もう少しいいゼミ論が書けたかも」と残念に思ったのを覚えています。当時の読書ノートをひっくり返してみたら、「ああ論文はこう書くといいんだな、引用はこうすると効果的なんだなと参考になる点が多かった」と書いてありました。このブログを読みにきてくださる方に学生さんはいらっしゃらないかとは思いますが、『アガサ・クリスティーの真実』も『鏡の中のクリスティー』も文学系のレポート・論文などを書く際には、こんなふうに書くとわかりやすくておもしろいというお手本になるのではないかと思います。

 残念ながら二冊とも絶版で、古書でもあまり流通はしていないようです。ただ図書館には入っているかも? 確認したところ、わたしの居住区はどちらも1冊ずつですが所蔵されています。

 ここで、貼りまくりの付箋箇所のなかから一部を引用してみましょう。読者によって好みが分かれる“推理小説中の恋愛要素”に関する部分です。

 //クリスティーの作品にはどこかしらに必ず、恋愛乃至夫婦間の愛憎が盛りこまれている。『自伝』には『スタイルズ荘の怪事件』について、「わたし自身、推理小説に恋愛の要素を持ちこむと話がひどく退屈になるということは知っている。恋愛はロマンティックな物語に属すべきものだと感じてもいる。科学的なプロセスであるべきものに、愛というモチーフを入れこむのは場違いだ。しかし当時の推理小説にはそうした要素はむしろ必然的であった。だからわたしもそれに倣ったのだった」と記している。
 しかしどうもそれだけではなさそうだ。事実、最後の最後まで、すなわち『カーテン』、さらに『スリーピング・マーダー』まで、愛はつねに彼女の作品の潜在的な主題だった。そして推理小説に盛りこみきれなかったものが、六冊のメアリ・ウェストマコットものに横溢したのであった。推理小説の場合にもしばしば恋愛が強力なモチーフとなっているのは、彼女の作品が登場人物の人間関係を軸として展開していくからで、当時の推理小説の常道にならったという以上にはっきりした必然性をもっていた。人間の関係が最も濃密な表われ方をするのは、愛憎においてなのだから。
 クリスティーは、すぐれた推理小説はよく工夫されたクロスワード・パズルのように面白くなくてはいけないと考えていた。しかし彼女は、読者に知的満足感を味わわせることができさえすれば自分の役目は終わるなどとは思っていなかったのである。
(『鏡の中のクリスティー』p.115〜116より)


 ほかにも犯罪小説の暴力場面や残虐行為に関するクリスティの考え方が書かれていたりと、パラパラめくってみるだけでも興味深いところがいっぱいです。復刊されればいいのになあと思います。

プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
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Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

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