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『ジョージと秘密のメリッサ』原書タイトルが George から Melissa へ

(2021/11/18)



 わたしが翻訳を担当した『ジョージと秘密のメリッサ』(体が男の子として生まれ、ジョージと名づけられた女の子の物語。邦訳は偕成社から刊行)の著者アレックス・ジーノが先日、原書のタイトルが George から Melissa に変更されると発表しました。今年の夏ごろから、#SharpieActivism としてジーノが個人的に開始した運動が原書の版元スコラスティック社を動かしたと言っていいようです。きょうはこの件について、ジーノのブログ記事などを読んでわたしが個人的に「そうだったのか」と納得したり、はっとしたりしたことを少し書きたいと思います。

*タイトルが George になった経緯
 メリッサの物語を執筆しはじめたとき、ジーノは自身の作品をちょっとふざけて Girl George と呼んでいたそうです。ある年代の人ならピンとくると思いますが歌手の Boy George にかけてのことでした。その後、いよいよ出版契約が結ばれるというとき、出版社側から"Girl"という言葉をタイトルから抜いたほうがいいと言われたそうです。当時の記憶は曖昧な部分もあるけれど、読者の年齢層からして Girl George から Boy George を連想できる人は少ないというのが理由のひとつで、ジーノ自身、Girl George はそれほど気のきいたタイトルではないかもという気持ちもあったようです。また出版社側は「Girl がタイトルに入っていると、本書を男の子に与えようとしない人々がいるだろう」とも心配していたといいます(この部分、個人的には驚きました)。当時、ジーノは本を出版できることになって興奮していたし、著者の権利についてもよく理解していなかった。粘って交渉するということも知らなかった。そんなこんなでジーノのデビュー作は George として出版されました。
 ただ、ジーノの心のなかでは George というタイトルが、本の主人公に対するデッドネーミング(トランスジェンダーやノンバイナリーの人が使用する名前をすでに変更しているのに、出生時につけられた、もしくは戸籍上の名前を本人の合意なく使うこと)に当たるという思いがしだいに強くなっていきました。

*タイトル変更のむずかしさ
 出版社は新しい版が出るときになかの文章を変えることはたびたびありますが、タイトルを変更する(それも現行のままですでに売れている本の)となると非常にむずかしい。表紙デザインも変えなければならないし、ジーノのほかの作品に載っている著者紹介文もすべて変えなければなりません。その大変さを認めつつも、ジーノはブログで次のように述べています。

The cover is beautiful. Iconic, even. But here’s the thing: so many transgender people have been told that we are beautiful/handsome as a reason not to transition, myself included. We are told that we will mar something special, as though looking pleasant to others is more important than being ourselves.
(表紙はとてもすてきです。作品を象徴していると言ってもいいくらい。でも、ここが重要なんですが、トランスジェンダーの人々は性別変更前のままで美しいということを理由に、移行しなくてもいいじゃないかと言われることがとても多いんです。わたしも言われました。わたしたちはすばらしいものを台なしにしてしまうと言われるんです。わたしたちが自分自身でいることより、他人の目に心地よくあることのほうが大事であるかのように。)

 この部分に、わたしははっとさせられました。いま多様性をめぐって、とても急速な変化が起きているけれど、そのなかで“美醜をめぐる既成概念”や“人目が優先される/人目を優先してしまう傾向”はとても根強いものがあるなと感じています。細かく指摘されなければ、そこに問題があると気づかずに通りすぎてしまうほどに。今回、ジーノのこの文章を読んで——なんと言ったらいいんだろう、“本当のその人らしくない美しさ”の意味を考えさせられたというか。これはトランスジェンダーやノンバイナリーの人だけに限らず、社会一般の人に広げて考えられることのような気がします。

*#SharpieActivism の開始、そして……
 ジーノはことしの7月、「あなたが持っている本のタイトルをMelissa's Story に変更することを、著者が許可します」とツイートし、自身の手で表紙タイトルを書きかえる運動を始めました。この運動が反響を呼び、読者からタイトルを実際に書きかえた表紙の写真がつぎつぎジーノの元に寄せられました。ジーノのブログ記事をスクロールすると、そうした写真が何枚もアップされていて楽しいです。みなさん、クリエイティブ!
 そして、10月末にはジーノのデビュー作を Melissa と改題することになったと、版元のスコラスティック社と共同で発表がなされるにいたったわけです。SharpieActivism の開始から4カ月足らず。でも本が刊行されてからは6年以上が経過しています。このふたつの時間に、2015年ごろからの社会・人々の意識の変化や著者の思いの強さ、実行力など、いろいろなことが表れている気がします。

 最後になりましたが、“デッドネーミング”という用語についてジーノは questionable(問題がある)という考え方であることをつけ加えておきます。理由は、「以前の名前・アイデンティティについて "デッド"という言葉を使うのはわたしたち当事者にとってあまりいいことに思えないから」とのことです。

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スコラスティック社のサイトからすでに紙の本を持っている人向けに Recover Your Book! として新しい表紙などが印刷できるようになっています。わたしはタイトルデザインだけのシートを印刷してみたら、ハードカバーにはサイズがそのままだと合わないみたいなので、虹のシールなどを使ってアレンジしてみるつもりです。

プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

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