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8月の読書 越智典子『完司さんの戦争』(偕成社)

(2021/8/21)

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 8月なので、太平洋戦争に関する本を読みました。越智典子『完司さんの戦争』(偕成社)です。

 著者の越智さんは戦争の話は苦手という人。第1章に「正直いって、戦争の話は、読むのも聞くのも、あまり好きではなくて、できればさけたいものだったのです」とあります。もう少し越智さんの文章を引用します。

 戦争の話を聞きたかったわけではありません。それでもわたしが、なんども完司さんのお宅に足をはこび、お話を聞きつづけたのは、完司さんのお話が、未知の世界にとびこんだ少年の冒険物語のようにおもしろかったからです。それと、もうひとつ、完司さんが徹底的に戦争ぎらいな人だったからかもしれません。完司さんは、わたしと同じように、戦争のことなど、読むのも、聞くのも、見るのも、きらいな人だったのです。けれども戦争はそんな完司さんをほうっておいてはくれませんでした。それは、他人ごとではなく思えました。

 誤解のないように書き添えると、「冒険物語のよう」というのは出征前、完司さんが満州で働いていたときのことと、終戦後、治療のために送られたアメリカでの体験を主に指しているのではと思います。
 児童書なのでやさしい言葉で書かれていますが、大人が読んでもものたりないということはありません。凄惨な描写は苦手だけれど、戦地で戦った人の回想を読んでおきたいという方には特によい本だと思います。やさしい言葉でも、グアムのジャングルで生き残った完司さん(左脚を失っていたので、這うことしかできませんでした)が、ほかの日本兵に人肉として食べられてしまう危険を感じたことなど書かれています。

 国と国の戦争ではないけれど、コロナ下で為政者によって国民の命が軽く扱われる現実を目の当たりにしているいま、この本を読んでいると、整理できない感情が湧いてきました。
 いまの政治家について考えていて思いだしたのが、石井桃子さんが1950年代に語ったという言葉です。少し前に読んだ梨木香歩さんの『ほんとうのリーダーのみつけかた』(岩波書店)に出てきたのですが、石井さんは次のように語ったそうです。「ゆたかに物をかんじ、のび、力を貯えなくてはならない時代に、今度の戦争を経験した人たちの不幸を、私は何にもたとえることができない。失われた成長期は、もうとりもどすことができない」「このごろ、若い人を見たり親類の子どもをあずかったりしてみると、『むかし』の人間なら、常識で考えられないようなことをしたり、言ったりする」
 その若い人たちのことを石井さんは「からだは一人前でも、精神的には、栄養失調」だと評しています。「それはその人たちのせいではないことは、なんともむざんなことである」と。
 現首相も都知事も戦後の生まれではあるけれど、戦後あまり時間がたっていなかったがために、豊かに物を感じる成長期を過ごせず、精神的には栄養失調のまま大人になった人たちなのかもしれません。



 わたしはもともと政治にはあまり興味がなかったし、20代のころは投票に行かないこともありました。周囲の影響もあり、30代からはほぼ欠かさず行っていますが。いまコロナ禍のさなかにあって、自分たちの生活を守るというより「生命」を守るために、投票には絶対に行かなければと感じています。戦中・戦後に子ども時代を過ごした人に限らず、いまの世の中には精神的に栄養失調の大人がいっぱいいるのかもしれない。それでも近い将来、いまより少しでもましな社会がどうか実現しますように。

プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
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Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

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