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8月の再読2 『ふくろ小路一番地』『モモ』『貸出禁止の本をすくえ!』

(2020/9/29)

 先月『屋根裏部屋の秘密』の再読についての記事のなかで、8月は太平洋戦争に関する作品に触れるようにしている、いま特に大事なのは、加害者としての日本に向き合うことだと感じている、ということを書きました。今月に入り、〈ひろしまタイムライン、共感に偏重する戦争企画の危うさ〉という朝日新聞デジタルの記事を読んで少し考えが変わりました。わたしが「なるほど」と思った部分を記事から引用します。

――加害の歴史は、どうすればいいのでしょうか。
 私は「8月ジャーナリズムの限界」を指摘してきました。多くのメディアの戦争企画が8月6日の広島原爆の日から始まって、15日の「終戦の日」で終わります。8月15日の正式名称は「戦没者を追悼し平和を祈念する日」です。
 お盆の影響もあり、この期間はどうしても心情的には鎮魂や弔う機会になります。戦争責任や戦争の加害の歴史も扱うべきだというのは正論ですが、祈りながら議論することは難しい。慰霊においては心から追悼し、平和を考えるときは徹底的に議論すればいい。二つのことを同時にする必要はないのです。
 だから、私は「9月ジャーナリズム」の必要を提唱しています。国際的には、米戦艦ミズーリ号で降伏文書に調印した9月2日を終戦と考えるのが標準的です。その日を軸に、8月29日の日韓併合や9月18日の満州事変に関しても理解を深めればいい。アジア諸国の歴史認識を冷静に考える機会をつくったらどうでしょうか。

「二つのことを同時にする必要はない」——たしかに。原爆投下も空襲も、日本人がアジア諸国で行ったこともすべて「戦争中のこと」とひとくくりにして考えてしまいがちですが、「二つのこと」と分けて考え、向き合う時期も分けるのはとてもよいアイディアではないかと思いました。わたしも来年は9月に「加害者としての日本」と向き合ってみます。

*************

 さて、8月は『屋根裏部屋の秘密』以外にも再読した本が3冊あり、どの作品についてもとても充実した読書時間を過ごせたので、きょうはその3冊について少し書きたいと思います。

『ふくろ小路一番地』イーヴ・ガーネット著・石井桃子訳・岩波少年文庫
 この作品は昔、原書で読んでいたのですが、今回岩波少年文庫版で読みなおしたことで、石井桃子さんの訳者あとがきと松岡享子さんの解説を読めたことが大きな収穫でした。著者ガーネットについてや、本書が“イギリスの児童文学史上初めて「労働者階級」の子どもを取り上げたことで大きな話題となったこと”などを知ることができたました。ガーネットはロンドンの子どもに関する本の挿絵を依頼され、いわば取材のために貧民街を訪れたときに、社会的な関心をよびおこされたのだとか。ちょっと『あしながおじさん』のジュディと著者のウェブスターの姿と重なるなあなんて思いました。

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(↑岩波少年文庫版と昔買ったペーパーバック)

*以前書いた松岡享子さん関連の記事:松岡享子さんのインタビュー記事から ヴァージニア・リー・バートン展とシンポジウム
*「労働者階級」というキーワードでつながる部分がある記事:『労働者階級の反乱〜地べたから見た英国EU離脱〜』ブレイディみかこ(光文社)(この記事のなかで映画の〈エセルとアーネスト〉に触れているのですが、あの映画の原作はまさに松岡享子さんが“一九六〇年代からは、「労働者階級」出身の作家が何人も登場して、文字どおり「内側から」現実を活写するようになりました”と述べていらっしゃるなかの一冊かと)


『モモ』ミヒャエル・エンデ著・大島かおり訳・岩波少年文庫
「うわ、エンデは1973年の時点でこれを書いてたんだ!と唸りながら読みました。 
 こちらはちょうど30年ぶりの再読。Eテレの〈100分de名著〉で取りあげられたことがきっかけになり、読みなおしました。〈100分de名著〉のテキストも買いました。そのテキストの〈はじめに〉で河合俊雄さんは次のように述べています。

多くの大人の読者は、灰色の男たちをアレゴリー(寓喩)としてとらえ、そこに『モモ』が持つ文明批判的な側面を見出すことでしょう。一方、子どもは文明批判にはあまり興味はないと思いますから、『モモ』は大人こそがその真価を理解できる作品といえそうです。

 30年前にも、風刺的な部分も含めてさすが名作とは思ったのですが——以前、こちらの記事に書いた読書ノートに記録が残っていました——当時はまだ20代前半だったこともあって、この作品の文明批判をまだわりと呑気に受けとめていたような気がします。今回は「で、わたしはどうする?」と差し迫った気持ちで自分に問いかけながら読みました。今回、付箋を貼った箇所から少し抜き書きします。

p.102 そして、いわゆる「時間節約」をはじめる人の数は日ごとにふえてゆきました。その数がふえればふえるほど、ほんとうはやりたくないが、そうするよりしかたないという人も、それに調子を合わせるようになりました。

p.141 「人生でだいじなことはひとつしかない。」男はつづけました。「それは、なにかに成功すること、ひとかどのものになること、たくさんのものを手に入れることだ。ほかの人より成功し、えらくなり、金もちになった人間には、そのほかのもの——友情だの、愛だの、名誉だの、そんなものはなにもかも、ひとりでにあつまってくるものだ」


 コロナ禍のなかで「もうこれまでと同じ暮らしは続けられない」あるいは「いまこそ変えるチャンスだ」と感じている方は多いはず。『モモ』はいまこそ読みかえすべき本だと思います。



 ちょっと長くなってしまったので、きょうはここまで。『貸出禁止の本をすくえ!』については別記事にして、数日中にアップします。

プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

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