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8月の再読『屋根裏部屋の秘密』

(2020/8/31)



 何年か前から、8月は太平洋戦争に関する作品に触れるようにしています。ことしは5年前に読んだ『屋根裏部屋の秘密』を再読しました。いま特に大事なのは、加害者としての日本に向き合うことだと感じているからです。

 児童向けに書かれた本ではありますが、そして再読であるけれど——いや、再読だからこそかもしれません——屋根裏部屋に隠されていた秘密が明らかになる13章以降は、何度もハンカチが必要になりました。本書で取りあげられている731部隊については、以前NHKスペシャル〈731部隊の真実〉を観たあとにこんなことを書きました。

 あのような番組の制作が可能になったのも、戦後70年以上という時が過ぎ、機密扱いだった資料が公開されたり、人体実験に関与した人の遺族が故人の日記の提供に踏み切ったり——これはたいへん勇気の要る決断だったと思います——ということがあったからと言えるでしょう。(当ブログ2018年1月31日の記事より)

 あの番組の制作に協力した遺族が経験したはずの葛藤を、『屋根裏部屋の秘密』ではまだ中学生のエリコが経験しなければならなかったわけです。それも戦後70年ではなく、戦後40年ほどの時代に。今回、再読して付箋を貼ったところから2カ所引用します。

 いまここでなにかをしなければ、じじちゃまの思いも、リュウリィホァのねがいも、そしてエリコの苦しみも、みんな無になってしまう。いや、なによりもあの資料は日本の歴史の空白を埋めるかけがえのないものなのだ。(p.196)

 さりげなく暮らしているぼくたちのまわりに、なんと、あの時代の重みを負った人たちがいることか。ふつうの生活のなかで、よき父であり夫である人たちが、戦争のなかで、なにを負ってきたか……。(p.199)


 1カ月ほど前、第二次世界大戦中に強制収容所で元看守を務めた93歳の男性がドイツで有罪判決を受けたという記事が朝日新聞に掲載されました。アウシュビッツをはじめとした強制収容所解放から75年。当時の上級将校はほぼ全員死んでいるはずで、いま訴追の対象となっているのは「組織の歯車」にすぎなかった末端の職員です。記事にも書かれていますが「戦後ドイツでは本当に罪がある者が罰せられず、責任を問われることなく高い地位に就いていた」と、現在続けられている下級職員の追及に疑問を投げかける人もいます。
 ナチスの下級職員を訴追することについては、わたしが翻訳を担当したアンドリュー・ナゴルスキの『隠れナチを探し出せ 忘却に抗ったナチ・ハンターたちの戦い』でも最終章である16章『旅の終わり』で詳述されていました。考えてみると、わたしが加害者としての日本を強く意識するようになったのは『隠れナチを探し出せ』を訳したことがきっかけです。ここで少し長いですが、約3年前に記した訳者あとがきから引用します。

 本書ではホロコーストという過去の惨禍を将来世代に伝えていくことの重要さがくり返し述べられている。そこで思い出されるのが、前作の日本の読者に向けた著者あとがきだ。そのなかでナゴルスキは、「かつてナチスドイツと同盟を組み、同国に劣らず、軍事力による領土の獲得と、〝劣った〟人種と国民の支配へ突き進んだ日本」について、「破滅的な被害をもたらした第二次世界大戦の悲劇から長い年月が過ぎたいま、日本社会はドイツ社会に比べて、戦時中にみずからが行った行為の厳しい現実に向き合うことに対し、はるかに消極的だ」と指摘していた。
 過去の現実との向き合い方という点でドイツと日本のあいだには今、大きな差が生まれてしまっているが、ドイツも最初から現在のような姿勢だったわけではない。同国人の過去の行いから目をそむけよう、忘れようとする人々が社会の大半を占めていた時期もあった。ナゴルスキは本書でそうした時代のドイツについて語りながら、社会的な空気がどのように変わってきたかを振り返っている。(中略)本書はわたしたち日本人が第二次世界大戦中に行ったこととどう向き合っていくべきか、あらためて考えさせられるだけでなく、現在の社会的な雰囲気を変えていく参考にもなる。著者は日本のことだけを考えて本書を執筆したわけではないが、日本人としてはきびしい指摘のあとに続くフォローアップのような意味を持つ本だと感じた。ナゴルスキの文章にはさまざまな国でいまを生きる人々の今後の行動への期待がこもっている。
 

 日本に比べてしっかりと自国の戦争責任に向き合ってきたドイツも、最初からそのような姿勢だったわけではなかったのです。いまを生きる戦後世代には、過去の行為に対する当事者としての責任はありません。ただ、同じ惨禍をくり返さない、平和を守るという責任はあります。
 朝日新聞の記事のなかで〈ナチス犯罪解明のための州司法行政中央本部〉(追及センター)のトーマス・ウィル副所長は「今の若い人たちのためにも、ドイツは歴史の一部を意識し続けていくことが大切だ」と述べています。
 日本でももっと積極的に過去と向き合ったうえで、平和を守っていく方法があるはずです。


プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

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