FC2ブログ

05

21

コメント

ソール・ライター展に行ってきました

IMG_1016.jpg

 行ってきましたと言っても、もう3カ月以上も前ですが。会期は1月9日〜3月8日の予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のために2月28日から中止になりました。

 ソール・ライター展は2017年にも開催され、そのときは行きそびれてしまったんです。映画を観ていたこともあって、会期が終了したあとにこちらの記事を読み、行きそこねたことを激しく後悔しました。
 わずか3年足らずで彼の作品をじかに見られるチャンスが訪れようとは。当日会場をめぐりながら思ったことのひとつが、ライターの写真そのものとは関係ないんですけど、「一度機会を逃したことでも、縁があればまたチャンスはめぐってくるんじゃないか」ということ。「チャンスの神さまには前髪しかない」とか「一期一会」という言葉もありますけどね。縁さえあれば!
 
 ライター展はNHKの日曜美術館でも取りあげられて、柴田元幸さんが(映画の字幕翻訳を担当されたりという関係から)コメントを寄せていらっしゃいました。そのときのコメントがどこかにアップされていないかと調べていたら——日美のコメントは見つからなかったんですが——2015年の映画公開時のこちらのインタビュー記事を見つけました。翻訳について、アメリカ文化、社会背景なども交えたお話が、さすが〜!という感じで非常におもしろいです。二箇所、引用させていただきます(文中の「彼」はライターのことです)。

柴田:普通でいうニューヨークのすごさって、人種的にも文化的にも多様なところですよね。彼はその多様性に敏感に反応したわけではない。でも、あの年齢で白人でマルチカルチャーに興味がないとすると、もっと自己完結してしまうというか、自分の文化を善しとするところに落ち着きを見出してしまいがちですけれど、彼はそういうところも全然ない。ニューヨークという場所に根付いてはいたけど、アイデンティティーを主張するような感覚はあんまりなかったんじゃないかな。そこが彼の独特さであり、素敵なところですよね。

柴田:要するに、彼自身は「サクセス」に興味なんてないんだけど、彼だって世間的な常識を知らないわけではないので、人の成功を測るのは金銭的なものだというアメリカ的な考えは根深くあるんだと思う。「サクセス」という言葉は日本語で訳しにくくて、「成功」というよりは「出世」のほうが狭い文脈では近いのですが、要するに「有名になって、お金がたくさんあって、大きい家に住む」ということですよね。その「サクセス」の呪縛というのは、アメリカ人にとって本当に大きいんだなと思いました。だから、ソール・ライターみたいにマイペースで生きているような人でも、奥さんに対する申し訳なさに思いをめぐらすところでは、ああやってポロッと出てきたりするんでしょう。

 はじめのほうにリンクを貼ったポリーヌ・ヴェルマールさんのインタビュー記事(2017年ほぼ日)からも数カ所引用を。

アンリ・カルティエ=ブレッソンの初期作と、
ソール・ライターの作品には、
どこか、共通性があると感じています。 それは、ひとつには、
世の中の「美」に対する感受性の高さと、
そして、
見る者の感情に、知的に訴えかける部分。

ブレッソンとライターは、
「優しさの感覚」というようなものを、
共通して、
持ちあわせていたとも、感じます。 高い感受性や天賦の才によって、
誰もが「いいな」と思う「美の瞬間」を、
マティスやボナールのように、
とらえることのできた作家だと思います。

はい、そうです。英語でもフランス語でも、
「頭」と「感情」は
それぞれ、別の言葉で表現するんですけど、
日本語の「心」というのは、
頭でとらえたものと、
感情でとらえたものが混じり合っている、
そういうものだと、理解しています。 わたし自身、日本で育っているのですが、
ソール・ライターの写真には、
わたしは、日本の「心」を感じるのです。

そして、その「語らない」という姿勢を、
声高に主張しても、いなかったこと。


 こうしてライターに関する文章をいくつか読んでみると、彼について考えるときのキーワードのひとつに「主張しない」がありそうな気がします。
 一度読んで大きくうなずいたりした記事も、細かいところはすぐに忘れてしまう者としては、何年も前の記事がこうしていまも読めるのはありがたいです。

IMG_1161.jpeg
ライターの本とブレッソンの展覧会(2007年)の図録。昔は、写真の場合、印刷でもそれなりに楽しめるのではなんて思っていましたが、星野道夫さんの展覧会に行ったときにそんなことはまったくないとわかり、大反省。いま休館になっているあらゆるジャンルの美術館・博物館・展覧会会場が一日も早く再開されるといいなと思います。

プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

QRコード

QR

*32*

Designed by

Ad