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翻訳書ドミノ 第21回 『ヴァルハラ最終指令』

(2016/08/19)

 きょうは翻訳書ドミノの21回。著者が「軍人経験のあるイギリス人」つながりで『ヴァルハラ最終指令』(ハリー・パタースン著・井坂清訳)へ。ハリー・パタースンはジャック・ヒギンズの別名義。ゴールディングとヒギンズは教師の経験があるところも共通しています。

 原書は1976年刊行、邦訳は1979年初版ですが、わたしは最近読みました。
 『ミステリー&エンターテインメント700』(河田陸村・藤井鞠子編著・1996年東京創元社)によると、『鷲は舞い降りた』『脱出航路』を書いた70年代半ばからの10年間がヒギンズの脂の乗りきった時期だったとか。本書はその時期の作品ですね。

 わたしにとって、ヒギンズ作品は男女ともにかっこいい登場人物が出てくるところが魅力なんですが、本書でもその期待は裏切られませんでした。おもな登場人物のなかで、女性はドイツ軍の捕虜となっているクレール・ド・ボービル(貴族の夫人)とクローディーヌ・シュヴァリエ(ピアニスト)の2人。どちらも強い人ではないんだけど、いざというときには毅然としていて、男女を問わず読者から支持されそうな人物造形でした。

 男性登場人物では、主人公ではないんですけれど、ちょっと高齢寄りのポール・ガイヤールが魅力的でした。著名な作家で閣僚経験もあるというフランス人。医師の資格を持っていて、若いときに五輪のスキー競技で金メダルを取ったこともある。このトゥー・マッチで嫌みになりそうな設定も、ヒギンズが書くと大丈夫なんだなあ。「腰のまわりにも年月とともに肉がつき、ほんとうのところ、調子がいいとはいいがたかった」なんて告白もありますしね。

 戦争が背景になっている作品で、登場人物があまりにかっこよく描かれていたり、自己犠牲が美化されている感があったりすると、ちょっと不安になることがあるのですが、本書は戦争(人と人の殺し合い)のむなしさもしっかり描かれていると思います。「○○人だから」という単純な理由だけで悪いやつが出てこないところもいい。

 いろんな意味で安心して読め、そして満足感を得られる本でした。

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(↑「男性向け!」な感じの表紙ですが、ヒギンズの作品は女性もすごく楽しめると思います。)


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翻訳書ドミノ 第20回 『蠅の王』

(2016/06/16)

 ひさしぶりの翻訳書ドミノです。前回の『白鳥のトランペット』はキーワードがいくつもあったので迷いましたが、「タイトルに生きものの名前が入っている」つながりで『蠅の王』へ。著者ゴールディングはノーベル文学賞受賞者です。

 この作品はこちらの記事にちらっと書いた読書会の課題書になったのをきっかけに、何年も前に読みました。読書会当日、主催者のKさんが教えてくださったのが松岡正剛氏のこちらの文章。松岡氏が「二度と読む気はしないような気がして放ってあった物語だが、それだけに忘れられなかった」「しかし、かなり吐き気を催す寸前まで、物語は進んでしまうのである」という作品、わたしにとってはとにかく読むのが苦しかった。最後は「はやくゲームオーバーにして」とばかり考えていた覚えがあります。

 そんな読むのが苦しい本になぜつなげたかと言えば、読後は「読んでよかった」と思ったからです。少年たちの物語なので、特に若い世代と若い世代に関心がある人に読んでほしい。↑の松岡氏の文章にあらすじが詳しく(結末は伏せて)書かれているので、未読の方はまずそちらぜひ。





 若い世代に読んでほしいと書いたけれど、早すぎると問題もあるかもしれないので、高校生以上ぐらいがいいのかなあ。突っこんだ解釈をしなくても、ただこの作品の衝撃を体験しておくだけでも、意味はあると思うのです。でも、いまは新潮社、集英社ともに文庫版は古書しかないのね……。




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翻訳書ドミノ 第19回

(2016/03/13)

 あ、あれ、おかしいな、3月になったらサクサク更新するはずだったのに……ということで、なぜか3月にはいって初めての更新ですが、本日は翻訳書ドミノの19回。前回の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』から「キーワードがミュージシャン」つながりでE・B・ホワイトの『白鳥のトランペット』(松永ふみ子訳・福音館書店刊)へ。『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』はタイトルにもあるグレイトフル・デッドがロックバンド、『白鳥のトランペット』は主人公ルイがトランペッターです。ちなみにルイは声の出ない白鳥。



 おもしろい児童書は年齢にかかわらず人を惹きつけるもの。わたしもよく人と話すときに「大人も子どもも楽しめる作品」なんて言ったりしますが、この本は大人と子どもが同じところで笑いつつも、その笑いの種類というか度合いがちがうかもと感じた本です。この作品の魅力についてはこちらのページの担当編集者さんからのメッセージにあますところなく書かれているんですが、ここにもおもしろさのポイントとして指摘されているルイの両親のコミカルな会話、「人間の大人たちの、多少打算的でありながら良心的でもあるという世俗的健全さ」が、たぶん大人の読者が読むと「あるある」度「わかるわかる」度がすごく高くて、しみじみとおかしいと思うんです。本書の帯には「『ちびっこスチュアート』『シャーロットのおくりもの』の作者による小粋な物語」とあるんですけど、もうほんと「小粋」という言葉がぴったり。さすがE・B・ホワイト!

 E・B・ホワイトといえばピューリッツァー賞を受賞していて、Elements of Styleというアメリカで超有名な文章指南書の共著者であるのですが、少し前にこちらのバージョンの表紙を見てぎょっとしました。これ、大学時代、作文の授業の副読本だった……けど、わたしはほとんど開いたことがなかった……そしてそのまま何年か前にさよならしてしまったような(汗)。学生時代はとにかく無事に卒業することしか考えてなかったんだよなあ。最近、いまに輪をかけてへなちょこだった自分を反省することがたびたびです……。


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翻訳書ドミノ 第18回

 きょうは翻訳書ドミノの第18回です。前回の『ボーイ・ミーツ・ボーイ』から「著者がデイヴィッドさん」つながりで『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』へ。



 先週、日比谷図書文化館で開かれている〈祖父江慎+コズフィッシュ展〉に行ってきたのですが、そのとき「そういえばわたし、祖父江さんがブックデザインを担当した本て持ってないかも……」なんて考えながら歩いていたら、ありましたありました。会場で展示されていたうちの一冊、それが本書でした。そうかそうか、このかっちょいいブックデザインは祖父江さんだったのか……気づいていなかった(忘れていた?)わたし(苦笑)。

 展覧会には平日の夕方に行ったのですが、なかなかのにぎわいぶり。休日は混んでたりするのかな?
 展示は祖父江さんがブックデザインを考えるときのメモや校正刷りなどもあって、おもしろかったです。「わ、ここまでこだわるんだ」とか、おどろく部分もあり。わたしは印刷や製本に関する知識がないんですが、知識のある人が見ると何倍も楽しめるんだろうな〜。

『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』は糸井さんが監修・解説となっていて、冒頭に推薦の言葉が寄せられていることからもわかるとおり、ほぼ日が好きな人と親和性の高い本だと思います。
 この本、2011年刊行なんですよね。冒頭の文章に3月11日の大震災への言及がありました。

 日本は、もう、それ以前には戻れない。だったら、戻るんじゃなくて、「横へ向こうへ、前へ後へ」の精神で、新しい道を歩んだらどうだろう。
 上を向いて歩くのはいいけれど、上をめざしてばかりというのは、どうもちがうみたいです。
(中略)
 日本の未来を育てるための人やネットワークが、あちこちに芽吹いているような気がします。
 偶然ですが、そんな時期にこの本が日本で発売されるのは、なんだかとてもいいことだと思います。


 本書に関係して書いておきたいのは、著者のひとりで「デイヴィッドさんつながり」のデイヴィッド・ミーアマン・スコット氏の著作、World Wide Rave: Creating Triggers that Get Millions of People to Spread Your Ideas and Share Your Storiesという本の存在。こちらKindle版がずーっとフリーで公開されてます。この本について知ったのは、『グレイトフル・デッドに〜』の訳者であり、ミセス・スコットでもある渡辺由佳里さんのツイートでだったかと思います。もうね、おもしろくて、たしかひと晩で一気読みでした。んでもって「わたしもブログをやろう」と決めたのです。あとでうかがったのだけど、由佳里さんがブログを始められたのもこの本がきっかけだったとか! 企業などでなく、個人レベルでも参考になるところが多い本です。こちらも邦訳が出ればいいのに。




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翻訳書ドミノ 第17回

(2016/01/13)

 うー、寒くなりましたね! けさは給湯システムの画面に「わたし、凍結防止のために働いてます」マークの雪だるまが表示されていました。
 さて、新年2回目の更新は翻訳書ドミノの第17回。「書名が全部カタカナ」つながりで前回の『ハートビート』から『ボーイ・ミーツ・ボーイ』(デイヴィッド・レヴィサン著・中村みちえ訳・ヴィレッジブックス刊)へ。



 アメリカ東部の学校に通うゲイの高校2年生、ポールの恋愛や友だちとの交流を描いた作品です。
 ポールがゲイという点を除けば典型的YAという印象。これは平凡という意味ではなく、読んでいるあいだポールがゲイだということは特に意識させられなかったと言ったらいいかな。ポールにはもちろんストレートの友だちもいるので、彼女たち、彼らのくっついたり・はなれたりも描かれています。原作の刊行は2003年、日本での出版は2009年ですが、LGBTという言葉が日本でも浸透しはじめたいまが読み時かも。
 同性愛者やドラァグ・クイーンが何人も出てきて、ありのままに学校生活を送っているさまには「すごいな〜」と感じる人もいるかもしれません。ドラマ〈glee/グリー〉などを観ている人は「はいはい」という感じでしょうか。

 LGBTの人の占める割合については、電通総研が行った調査の数字が引用されることが多いようです。この調査の信憑性については疑問視する声が当事者のあいだからも出ていたりするようですが、参考までに記すと2012年の調査で5.2%、2015年の調査で7.6%となっています。2015年に増加した理由には、調査手法の変更と、社会環境の変化や関連情報の増大によって該当者の自己認識に影響があったことなどが想定されるのだとか。もう少し公的な調査結果ってあるのかしら。LGBTをビジネスにつなげようという動きがあることを考えると、ちょっと気になります。
 話が少しそれましたが、『ボーイ・ミーツ・ボーイ』を読んでいると「本当はこれくらい多様性に富んでいるのが自然なのでは」という気持ちになりました。

 著者レヴィサンは作家として活動すると同時にスコラスティックという児童書専門の出版社で編集長をしています。自身もゲイとのこと。つい先日行われたアメリカ図書館協会(ALA)の大会で、YA文学への貢献をたたえられ、マーガレット・A・エドワーズ賞を受賞しました。

 本書はレヴィサンがヴァレンタイン・デーに友だちのために書いた物語がもとになっているのだとか。そういう意味ではヴァレンタイン・デーが一カ月後というこの時期に向いている作品でもあります。描かれているのは11月なんですけどね。


プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

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