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翻訳書ドミノ 第16回

(2015/12/23)

 きょうは翻訳書ドミノの第16回。主人公が「走ることが好き」つながりで、前回の『セプテンバー・ラプソディ』からシャロン・クリーチ作『ハートビート』へつなげます。



 カーネギー賞とニューベリー賞の両方を受賞している著者による散文詩の形をとった物語。余白が多く、字数は少ないのだけれど、伝わってくるものはとても大きくて、うなりながら読みました。ガルル……あ、これはうなりちがい(笑)。冗談はさておき、伝える手段は「言葉を尽くす」だけじゃないということを再認識させられた作品でした。

 「わたし」ことアニーのお母さんのおなかには赤ちゃんがいます。いっぽう、同居しているおじいちゃんは記憶が混乱したり、できないことも増えてきたり。わたしはこのおじいちゃんがとても好きでした。実際に同居しているとつらいこともありそうだけど。赤ちゃんに部屋をゆずるために、梁にロープをかけよう、なんて言われたら……。

 走ることと絵を描くことが好きなアニーはとても頭のいい子です。自分がなんのために走るかを知っている。児童書ですが、大人も「なんのためにこの仕事をしているのか」とか、迷ったときや疑問を持ったときは特に、胸にひびくものがあると思います。

 生まれくる命と老いて(消え)ゆく命。アニーは美術の宿題で百日間、ひとつのりんごを描きつづけます。アニーが描いた百番目のりんごは「小さくつややかな茶色い種ひとつ/涙の形をして/りんとして/古くもあり新しくもあり/ひっそりとして/かつ/秘密に満ちた/もの」。

 余白に、走るアニーのパラパラ漫画が描かれていて、これがまたいいんです。ほんとにシンプルな絵だけど、走るアニーの喜びが感じられて。装丁もすてき。カバーをはずすとがらりと印象が変わります。

 タッタッ、タッタッ


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翻訳書ドミノ 第15回

(2015/11/15)

 今回は翻訳書ドミノの第15回。「保身をはかる人々のせいで主人公の命が危険にさらされる」つながりで『セプテンバー・ラプソディ』へ。今回はちょっとだけネタバレ気味かもです。前回の『超音速漂流』では高額の保険料を支払いたくない保険会社と航空会社の担当者が主人公の乗った飛行機をいっそ墜落させようと画策しましたが、『セプテンバー・ラプソディ』では企業のオーナー経営者が創業者の名声を守るために私立探偵のヴィクの調査を妨害しようとします。



 本書はサラ・パレツキーによるV(ヴィク)・I・ウォーショースキー・シリーズの最新刊。
 ヴィクのシリーズというと、スタート当初は特に3F小説(作者・主人公・読者がそろって女性)の代表として有名だった印象があります。日本でも人気のシリーズですが、わたしは20年ぐらい前に読んだとき、どうもピンとこなくてその後追いかけてきませんでした。
 なんでこんなひさしぶりに読む気になったかというと、こちらの記事を読んだのが大きかったかと思います。「シリーズ初期に比べると、ヴィクってとっても自然体になった気がする。当初の肩肘張ってた感じがなくなって、経験と自信に裏打ちされた余裕が出てきた」という大矢さんのコメントに、それなら読んでみようかなと。前にピンとこなかったのはたぶんシリーズ初期のヴィクの「肩肘張った感じ」がわたしには魅力的じゃなかったせいだったんですよね。
 そして……50代に入ったらしいヴィクは確かに余裕が感じられてすてきでした。ヴィクを囲む人々やヴィクのことも正直ほとんど忘れていましたが、そんなわたしでも本作は大いに楽しめました。単独作品としてもしっかり成立している作品です。

 キーワードはノーベル賞、原爆開発、水爆実験、コンピュータ開発、ナチのユダヤ人迫害、女性物理学者といったところでしょうか。ユダヤ系移民の親子4代にわたる物語でもあります。その意味でケイト・モートンの『忘れられた花園』を思い出すような雰囲気もあり。また現在と1930年代から40年代を行ったり来たりする構成が、ブロックマンのトラブルシューターズ・シリーズの初期作品(第二次世界大戦中のエピソードが平行して描かれる)と似ているところもあり。女性探偵もののファンではなくても引きこまれる作品だと思いました。

 山本やよいさんの訳者あとがきによれば、シリーズ10作目の『ビター・メモリー』が本書と似ているとか。こちらも読みたいという気持ちになりました。

 そうそう、本作には著者による「歴史メモ」がついていて、本書に登場するウィーン放射能研究所(IRF)やマルティナ・ザギノールのモデルとなったマリエッタ・ブラウという物理学者についての詳しい情報が盛りこまれている点がとてもよかったです。20世紀初頭のIRFは女性科学者を積極的に登用するユニークな組織だったとか。「あの時代に!」と驚きました。


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翻訳書ドミノ 第14回

(2015/10/03)

 今回は翻訳書ドミノの第14回。「主人公(ヒーロー)が本来なら受けられるはずの支援を受けられず、ほぼ孤立無援状態」つながりで『超音速漂流』へ。第13回で取りあげた『遠い夏の英雄』ではSEALSの公式の支援を受けられないトムがチームメイトの協力を得てテロリストを追いましたが、『超音速漂流』では、ミサイル攻撃を受けた超音速旅客機ストラトンの乗客でアマチュアパイロットのジョン・ベリーが、ストラトンの墜落を望む関係者に妨害を受けながら、巨大機を操縦してサンフランシスコへ帰還するという不可能に挑みます。



『超音速漂流』は航空パニック小説の大傑作。航空パニック+謀略小説といった感じで、困難につぐ困難のハラハラドキドキと、保身をはかる人間ーーミサイル誤射を隠蔽したい軍人、莫大な保険料支払いから逃れたい航空会社と保険会社の担当責任者ーーの醜さや弱さが描かれています。高高度で脳損傷を負った人々がときに暴徒となって襲いかかってくる恐怖も。著者のひとりトマス・ブロックが本職のエアライン・パイロットという作品背景に説得力があります。
 本作を初めて読んだのは20年ほど前。英語で読んだのですがページを繰る手が止まらず「これぞページターナー」と思ったのを覚えています。時間がたつと忘れてしまうところももちろんいっぱいありますけれど、「おもしろかった!」という満足感は褪せることのない作品です。
 こちらの記事にもちらっと書きましたとおり、わたしが世話人をしている読書会が9月27日に開かれました。27日の読書会の課題書はハイジャックものの傑作『シャドー81』。そんなわけで、課題書とゆるく結びつけられるかなと少し前に本書を再読しておいたのですが、寝る前に読むとドキドキが強すぎて安眠の妨げになりそうでした(苦笑)。いまも流通していればこの作品を読書会の課題書にしたかったところです。もちろん『シャドー81』も非常におもしろい作品ですから、27日の読書会はおおいに盛りあがりましたけどね。



 先日の読書会はわたしが司会を務める番だったので、司会をしながら気づいたこと、あとで反省したことなどがありました。そうしたことについてもまた機会があったら書ければと思っています。

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翻訳書ドミノ 第13回

(2015/08/09)

 本日は翻訳書ドミノの第13回。“主人公が冒頭で失神する”つながりで『遠い夏の英雄』へ。前回取りあげた『火星の人』は宇宙飛行士であるマーク・ワトニーが火星の砂嵐のなかで失神しますが、『遠い夏の英雄』は米海軍SEAL隊員のトム・パオレッティが要人救出作戦の途中で爆風に吹き飛ばされ、失神するところから物語が始まります。

 『遠い夏の英雄』は、わたしもこれまでに4作を翻訳しているスーザン・ブロックマンの〈トラブルシューターズ・シリーズ〉の第1巻。翻訳は山田久美子さんです。



 〈トラブルシューターズ・シリーズ〉は1作ごとにヒーロー&ヒロインが異なり、物語も1話完結。第1巻のヒーローを務めるトム・パオレッティは米海軍特殊部隊の精鋭、SEAL第16チームの隊長を務めています。部下の信頼も厚く、超かっこいい男なのですが、彼について、読んだ人のあいだでまず話題にのぼるのがその頭髪問題。

 いまの彼は、後退している生え際もまったく気にかけていないかのように、髪を短く刈りこんでいる。たしかにてっぺんは急激に薄くなりつつある。でもそれは問題ではなかった。短い髪は彼によく似合っていた。
 この点には疑いの余地がない。あと二、三年もすれば、トム・パオレッティ――ハイスクール時代ずっとポニーテールで通した男――は世界でいちばんハンサムな禿げの男になるだろう。(p.47)


 ↑これがヒロイン、ケリーがトムと再会した直後の描写ですからね(笑)。ロマンス小説のジャンルでつぎつぎ意欲的な挑戦をしているスーザン。彼女にとってはヒーローの頭髪も多様性の一部ということでしょうか。

 ネタっぽい部分から入りましたが、本書はロマンスとサスペンスのバランスもよく、ストーリーがほんとによくできた作品。ロマンス小説ファン以外の方も、ラストはしみじみと感動するのではと思います。特に戦時の切ない恋愛が描かれた映画――『誰がために鐘は鳴る』や『カサブランカ』――などがお好きな方は気に入る確率大ではないかと。

 最近流行の(?)高齢者が活躍する本でもあります。そのいっぽう、18歳と20歳のういういしい恋愛も描かれていて、ああ、この本て考えれば考えるほどよくできてます。

 ロマサスのなかでは骨太なシリーズなので、男性読者も楽しめるのではという声をときどき耳にします。たしかに! 男同士の友情なども描かれていますしね。男性で既読の方、もしくは読んでみようという方がいらしたら、感想をお聞きしたいなあ。
 いまは古書しか流通していないのが非常に残念。

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翻訳書ドミノ 第12回

(2015/07/11)

 今回は翻訳書ドミノの第12回。前回の『テメレア戦記 Ⅰ』から「主人公によくくり返す言葉がある」つながりで『火星の人』(アンディ・ウィアー著/小野田和子訳)へ。テメレアは「ふふん」、『火星の人』の主人公、マーク・ワトニーは……もちろん「イエィ!」(笑)



 もうね、この本はユーモア溢れる語り口がたまらんのです。先日、映画版の日本公開と邦題(『オデッセイ』)が決定して、ツイッターのタイムラインがざわめいていたけど、わたしは最初に映像が一部公開された時点でちょっと不安になりました。もしかしして、ふつうのサバイバル感動ものとして撮られてるのだろうか、原作のキャラクターのおもしろさ、滑稽さはどこまで生かされてるのかと。原作は主人公だけじゃなく、彼を救出するために地球でドラマを繰り広げる人たちも一癖も二癖もあっておもしろいんですけど。

 マーク・ワトニーはたぶん私的ナイスガイ・オブ・ザ・イヤー2015(刊行は去年ですが、わたしが読了したのはことしなので。ことしはまだ半年あるけどネ)。サバイバルに強くてユーモアも忘れないなんて最高でしょ。
 訳文も最高で、もう「すごーい、すごーい」と思いながら読みました。わたしもこんなふうに読むひとを楽しませられる翻訳ができるようになりたい。

 わたしはジャンル分けに詳しくないのだけど、本書はハードSFに入るのかな? 科学的な記述は多めです。
 以前のわたしは「こういう科学的な部分も細部まで理解して読まねば」と気負って自滅してしまうパターンだったんですが、最近は「なんか科学的な考察をしているわけね」とか「要するに深刻なピンチなのね」というおおざっぱなつかみ方で、よくわからない部分があってもとにかく先へ進むことにしています。そのほうがわたしは物語が楽しめるとわかったので。

 サバイバルものですから最後までハラハラさせられます。
 加えて、すでにユーモア、滑稽という言葉をそれこそ何度もくり返しているとおり、読書中にニヤニヤしたり、くすくす笑ってしまう作品です。でも、いきなりグッと目頭が熱くなる場面もあったり。それは作品の根底に流れているのが、ラスト近くでマーク・ワトニーが述べる、つぎのような考え方だからではないかと思います。

 ばかな植物学者ひとりを救うために、なんでそこ まで?
 (中略)一部はぼくが象徴しているもののためだろう――進歩、科学、そしてぼくらが何世紀も前から描いてきた惑星間宇宙の未来。 だか、ほんとうのところは、人間はだれでも互いに助け合うのが 基本であり、本能だからだと思う。そうは思えないときもあるかもしれないが、それが真実なのだ。


 話題作なのですでにお読みの方も多いと思いますが、未読の方は(ふだんSFを読まない方も)即チェック!の価値ありですよ~。


プロフィール

島村浩子

Author:島村浩子
東京下町在住の翻訳者。ミステリ・ロマンス・ノンフィクション・児童書など訳してます。本のほかに映画・洋楽・ミュージカルが好き。
Twitter: @rhiroko
Instagram:@reepicheeph
Fedibird(マストドン):@rhiroko
Bluesky:@rhiroko
タイッツー:@rhiroko
訳書一覧はWorks 仕事をご覧ください。

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